P.K.G. MAGAZINE | パッケージを考える

COLUMN

手作業で紡ぐ、伝統の伊勢型紙

2020.04.05

先日発売された「UMESHU THE AMBER」。弊社でそのデザインを担当させていただきました。中身の紀州梅酒になぞらえて、伊勢型紙をデザインに使用しています。その際に三重県にある伊勢型紙協同組合様まで取材に行ってきました。今回はその一部を紹介させていただきます。

伊勢型紙とは、友禅、ゆかた、小紋などの柄や文様を着物の生地を染めるのに用いるもので、千有余年の歴史を誇る伝統的工芸品(用具)です。和紙を加工した紙(型地紙)に彫刻刀で、きものの文様や図柄を丹念に彫り抜いたものですが、型紙を作るには高度な技術と根気や忍耐が必要です。昭和58年4月には、通商産業大臣より伝統的工芸品(用具)の指定をうけました。
ー伊勢形紙協同組合HPより引用

現物を見せていただきましたが、手作業で彫り抜いているとは思えない精密さ。梅酒のパッケージに使用するため、梅をモチーフにした柄のご紹介をお願いしたのですが、それだけでも80種類近くもの伊勢型紙がありました。こういった伊勢型紙は四種類の彫り方を組み合わせ、様々な柄を形成しています。

引彫り
左手で定規を押さえ、右手に鋭利な彫刻刀をもって均等の縞を彫っていきます。最高のものでは3cm幅に31本もの縞が彫られています。染める時に縞が動かないように糸入れされます。

突き彫り
彫刻刀の柄を右頬にあてて左手で刃先を調整しながら上下に動かし、7〜8枚の型地紙を穴板の上で突くようにして彫ります。彫り終わったものは型紙を補強するために紗張りされます。

道具彫り
彫刻刀自体が紋様のひとつの単位になっていて、柄尻に親指をあて強く押して型地紙を打ち抜きます。彫刻刀はそれぞれ彫る人が自分で作ります。

錐彫り
江戸小紋を彫る最も古い彫り方で、半円形の細い彫刻刀を左手で回転させて小さい孔をあけていきます。小紋柄の最高のものでは、3cm四方に900個もの孔があけられます。

単純な柄ほど少しのズレやミスがひと目みてわかってしまうため難しいそうです。難しい柄だと一枚の制作に一ヶ月近くかかることもあり、大変な根気と集中力が必要な作業です。職人様それぞれに得意な彫りの技法があり、お互いの技術を組み合わせることで一枚の作品が出来上がります。

柿渋で貼り合わせた型地紙は、伸縮性もなく普通の和紙に比べ耐久性に富みます。しかしあくまで紙のため、永久に使えるわけではありません。先人たちが築いた様々な柄の彫り方を、現代の職人様方が引き継ぎ、そして日々改良を重ねています。そうして磨かれた技術でまた新たな図柄が生まれ、引き継がれていきます。

私たちパッケージデザイナーは多種多様なクライアントの要望に応えるため、その都度考え方や制作方法を考えます。同じパッケージといっても、完成に至るまでのプロセスは様々です。同じ作業を繰り返すことはほとんどありません。対して伊勢型紙の職人様方はひとつの彫り方を極め、日々の仕事のほとんどをその技術の向上と改良に集中しています。そこから生み出される作品は緻密で手作業でありながら手作業による隙を感じさせず、しかし人の手で作ったからこそ生まれる味わいが共存しています。縞彫りのストライプひとつとっても、整然としているのにどこか温かみを感じます。パソコンでデータをただ均等に配列しただけでは作り得ない佇まいだと思います。

現在、伊勢型紙の需要は減りつつあります。職人様の数も随分減ってしまったそうです。理由は昔と比べ着物の需要が減ったこと、また他の安価な染色の技術が発達したことにあると思います。しかし伊勢型紙の伝統は他にはない素晴らしい技術として受け継がれるべき文化です。

今回はそんな伊勢型紙の図案を紀州梅酒のパッケージデザインに使用させていただきました。初めはただその美しさに惹かれてデザインに使用させていただきましたが、取材を経て新しい需要の形を作って伝統を繋ぐための一端を担えればと思っています。ベクトルは違いますが同じくモノを作る物同士、お互いの技術を組み合わせることで新しい切り口で伊勢型紙を世に出すことができたと感じています。「売れるため」「目立つため」のための綺麗さに止まらず、こうしたバックグラウンド含めデザインの価値になればと思います。


伊勢形紙協同組合
http://isekatagami.or.jp/

P.K.G.Tokyo : 白井絢奈

REPORT

今年で20周年「ROOMs 40」。ひとりひとりのものづくりと未来。

2020.02.27


原宿駅からすぐ、代々木競技場第一体育館にて開催された「ROOMs40 感じるトレードショー」を訪れました。
クリエイティブシーンの活性化を目的とした日本最大級のクリエイティブの祭典。
ファッションやアート、デザイン、ジャンルにとらわれない500以上のブランドの出展があり、今年で開催20周年目を迎えます。

さて、受付を済ませて入場後、早速目に留まったこの言葉。

地球環境問題をクリエイティブで考える「産廃サミット」のブースです。

廃棄物を毎日60トン処理し、リサイクル率99%の産業廃棄物処分業者「株式会社ナカダイ」が参加。
廃棄物業界で培ったノウハウを生かしつつ、同時にこれまでの業界にとらわれない斬新なアイデアと
他業種とのコラボレーションで、不要とされたモノのの先を考える、
循環を前提とした社会の実現を目指されています。
様々な産業廃棄物に着目し、多くのクリエイターとのコラボレーションや
自社のショールームや工場見学を開催し「循環」について考える取組をあらゆる視点から提案しています。

ブース全体にずらりと並べられた廃棄物たちは、色も形も様々。
オンラインストアではこの様々な廃棄物を一般向けに100gから販売しています。
廃棄物=捨てること、生み出すこと=悪ではなく、
ものづくりと廃棄を通して「循環」に興味を持ってもらうこと、
作り手のデザインや技術など、多様な価値観と魅力を付加させていくことを大切にしたいと話されていました。

こちらは子供向けの教材の回路パーツの一部。

仏具の「おりん」や、

大量の洗剤のキャップなど。

廃棄物と呼んで良いのか迷ってしまうくらい、素材の美しさや面白さが際立ち、じっくりと眺めてしまいました。
社員の方も各業種で生まれる見たことのない多種多様な廃棄物に出会うことも多く、大変興味深いそうです。

つづいては、aco wrapさんのブース。
カナダで開発されたこの素材は、一見不思議なシートのようですが食品を保存するあの「ラップ」!
奄美大島で天然染色されたコットンに岐阜県のミツロウで蝋引きし、国産にこだわって作られています。


ミツロウを使っているため、レンジで温めたり温かいものを包むのは難しいですが、
お手入れに水洗いもOKで、半年から1年、繰り返し使うことが可能。
野菜やパンの保存、お皿のフタに被せて使用します。

使うたびに柔らかさが増し、まるで使い込んだ革のような風合い。
5色から選べるので、使うのも楽しそうでシンプルなパッケージ形状も素敵です。私も早速、購入しました。

また、工芸作家の方々の展示も多数あり、興味深く拝見しました。
こちらは京都で作家として活動するatelier 立夏の作品。
金沢の伝統的な手工芸、加賀ゆびぬきをベースにし、糸や布を使ったアクセサリーをひとつひとつ作られています。

こちらは、服や雑貨を作る際に出る残布や残糸を使ったリングタッセル。
本来、加賀ゆびぬきは着物を縫うには短い絹糸の残糸を使ったことが始まりだそうです。
糸ひとつも大切に使い、美しく使い手を豊かにする作品は
身に着けるこちらまで、嬉しい気持ちになりそうです。

各ブースそれぞれの方の思いやものづくりへの考え方に出会い、
SDGsやサステナブルを意識したブースの多さに驚くと共に、
これからのものづくりの在り方や未来を考えさせられる機会になりました。

常日頃ニュースや街中でサステナブルやSDGsという言葉が目にとまるようになってきましたが、
「エコ疲れ」せず、美しく面白いものづくりたちに触れながら、環境問題に取り組んでいく。
今回の展示では、日々の暮らしを改めて見直すきっかけを与えてくれたように思います。

株式会社 ナカダイ http://www.nakadai.co.jp 
株式会社 モノファクトリー https://www.monofactory.com
aco wrap https://acowrap.jp
atelier 立夏 https://threadjewelry-ricca.com

P.K.G.Tokyo : 大西 あゆみ

REPORT

「なんか、ちがう。パッケージデザインのやくわり展」に行ってきました。

2020.02.20

容器文化ミュージアムで開催されている企画展「なんか、ちがう。パッケージデザインのやくわり展」を見に行きました。
昨年12月23日から行われていた展示。
SNSでもその好評ぶりを見ておりずっと気になっていたのですが、なかなか足を運ぶことができず…。
会期ギリギリの滑り込み!間に合ってよかった〜。


容器文化ミュージアムは常設展の展示風景も素敵。
展示ブースが色々な容器の形状になっていたり、容器についたバーコードを読み取ることでその特徴を見ることができたりと、見て、触れて、楽しめる空間です。

今回の企画展は、人の記憶にある「セオリー」に着目し、実験的パッケージからパッケージデザインが人に与える印象、その可能性を逆説的に浮かび上がらせることを意図しています。
セオリーに反する組み合わせによる「なんか、ちがう」違和感と、思いがけない発想を具現化した展示品による「なんか、ちがう」魅力的なアイデアを見せています。

私が特にハッとさせられたのは様々な形状に置き換えられたお茶のパッケージ。
普段見慣れたペットボトルではなく、長靴やプラモデル、缶や瓶などに緑茶のパッケージビジュアルがプリントされています。これは「なんか、ちがう。」
パッと見たときに可愛らしい印象も見受けられますが、パッケージデザインとしてはほとんど機能していません。こうした違和感をあえて形にすることで、中身がどんなものであるか伝える際に「形状」は印象を大きく左右する要素だと実感しました。

パッケージデザインの仕事をする中で、「この製品はこの形状のボトル」「この商品ならこの色かな」と特に疑いもせずにごく当たり前にセオリーを受け入れていたのだな、と感じました。

定石を全て抑え尽くしているかというと、これがまたそういうわけでもありません。
「パッケージの中にある間違いを見つける」というクイズ形式の展示。
「パッケージデザイナーを語っているのだから全問正解を目指そう!」と意気込んだのも束の間、1問目から大混乱。半分ほど見落としていました。

答えをみると「なるほど!確かに。」と納得できるのですが、意外と多く見落としがありました。ルール自体を知らない人もいるかもしれません。デザイナーとしては知っている必要がありますが、一般の消費者はどうでしょう。多くの人が表記のルールについて知識が無く、書いてある情報について疑いを持ちにくいのではないでしょうか。だからこそ情報を記載する側、作り手側は、誤解を招く表現は避けて、明確に正しい情報を伝える責任があるのだと再認識しました。

思いがけない形を具現化した展示品のコーナーでは、機能性と外観の面白さを兼ねたパッケージたち。ペントアワードの受賞作品を中心に東洋製罐の容器の新しい可能性を追求したパッケージが展示されていました。
ありそうでなかった発想は、パッケージにおけるセオリーや常識を知っているからこそ生まれてくるものだと思います。

この企画展を通して、自分の仕事が担う役割を改めて確認できました。
そしてまだまだ学ばなければいけないことが山ほどありそうです。
エラーを見つけられなかったのは本当に悔しい…!
大の大人を本気で悔しがらせるほど、とっても楽しい展示でした。

P.K.G.Tokyo : 佐藤 光

REPORT

P.K.G.オフィスにて、でざいん我流塾が開催されました!

2019.10.23

830日、P.K.G.Tokyoオフィスにて初めての「我流塾」が開催されました。「我流塾」とはデザインする上でデザイナー達が言葉にできない感覚的な技術、つまり我流をシェアする勉強会。とは言っても勉強会ほど堅苦しいものでなく、特にデザインの現場にいる若手たちにとっての新しい交流の場になればと考え企画されました。そんな我流塾がどんなものだったか記事にしてご紹介したいと思います。今回は、P.K.G.ディレクターの天野和俊が「ゼロからのロゴタイプ」をテーマに、キャンプ好きの為のアウトドアブランド、TARP to TARPのロゴができるまでの一部始終をご紹介しました。

TARP to TARPとは、その名の通りタープとタープがつながる様に人と人がつながるブランド。横浜・馬車道にショップを構えるカフェではキャンプ好きな人、これからキャンプを始める人、いつかキャンプををやってみたい人そんな人たちが出会い、キャンプの楽しみを分かち合える空間です。オーナーの須山友之さんはデザインコンセプトの会社「デザインの研究所」を離れ、昨年DISCOVERY株式会社を設立しました。DISCOVERYとは、彼の愛車ランドローバーディスカバリーを由来としているそうです。

さて、本題のロゴ作りについて。まずアウトドアブランドの仲間入りをするために市場のアウトドア系ブランドロゴのリサーチから始まります。すると、「シンボルマークやエンブレムのあるものが多い印象」や、「太い字や力強い字が多い印象」など、いくつか傾向が見えてきます。

このブランドにはどんなシンボルマークが良いだろうか。いや、果たして、シンボルマークというものが必要なのだろうか?という疑問から、あるイメージにたどり着きます。それは、LOVE/Robert Indiana、DESIGN LETTERS/Arne Jacobsen、House Industriesといった、文字そのもののシンボル化。言い換えれば、文字をキャラクター化するというアイデアです。

そこでキャンプの無骨なイメージからスラブセリフというカテゴリーのフォントに着目し、そのうちの一つMemphisで組んでみると、悪くはないけれど文字の域を出ないという印象。眺めながらオリジナルロゴフォントへの道筋をイメージします。

このオリジナルフォントを作る時は、まず芯から作ったそうです。骨格を作ってから線に太さをつけます。線の太さは「ある文字の1.5倍の太さ」文字と文字との感覚は「ある太さの4分の1」などとルールを作ります。そういった細かいルールを作ることで、シンプルでありながらロゴの完成度がぐっと上がります。赤字の骨格だけ見ると、とてもシンプルに構成されていることがわかります。

また、同時にDISCOVERYのロゴも作りました。一見すると超極細スーパースリムスラブと超極太スーパーボールドスラブ。見え方は異なりますが同じ仲間として印象を抱けるのは、母体となる骨格が同じ構造であることに言えます。

こうして作られたロゴフォントで様々なグッズ展開をしました。今までに展開されたTシャツやソックス、コーヒー袋にメニュー表…etc。我流塾でも実際に手にとって見ていただきました。数々のグッズ類のデザインも、フォントを組んだだけでしっかりとキャラクターが出てくるのはやはり緻密に設計されたロゴのおかげだと考えられます。

この後、他アイテムグッズも見ていただきながら交流会も開催しました。初めて出会う方同士も多い場になりましたが、どんなロゴを作った事があるか?あるいはどうやってロゴを作っているのか?など同じデザイナー通しとても盛り上がりました。ブランドロゴができるまでの一部始終をご紹介しましたが、いかがでしょうか?ふらっと外に出てみると、このお店のロゴはどんなフォントが母体になっているのだろう?何故このフォントを選んだの?オリジナルからどんな意図でどんな処理をしたの?とアウトドア系に限らず、世の中のロゴフォントの見え方が変わってきそうです。今後の我流塾でも、言葉にして伝えるのは難しいもどかしさを続々シェアしてゆけたらと思っています!

P.K.G.Tokyo : 横田栞

COLUMN

愛されるブランドの裏話。 — SORACHI 1984 ファンミーティング —

2019.09.13

19年8月4日、SORACHI 1984新ラインナップの発送開始日に合わせて、1984の日にSORACHI 1984 ミッションアンバサダー“ファンミーティング”が開かれました。SORACHI 1984ミッションアンバサダーとは、飲用体験の感想やこのビールに合う料理の紹介などをSNS上で積極的に情報発信をしてSORACHI 1984を一緒に盛り上げてくれるファンの方々です。なんと1万人を超える応募の中から1984人が選ばれたそうです。選ばれた方は発売に先行して試飲缶を手にすることができたり、ミッションアンバサダー限定イベントへの参加ができます。

そして、その限定イベントであるミッションアンバサダー“ファンミーティング”にトークゲストとして、P.K.G.Tokyoアートディレクター柚山と、弊社デザイナー白井で参加してきました。

この日はまさに夏本番。日差しが照りつける猛暑日にも関わらず、たくさんの方が来場されています。ミッションアンバサダーの皆さんは当然どなたもSORACHI 1984のファンで、ビール上級者の方ばかり。アンバサダー同士、語り合う言葉にも熱が入ります。みなさんとても気さくな方々で、非常にアットホームなSORACHI愛に溢れた会です。そして、まずはサッポロビール株式会社 高島社長のご挨拶から。

SESSION、DOUBLE、ANOTHER STORY “AMARILLO”。
Amazon限定販売の新しいSORACHI 1984のシリーズお披露目に、皆さんのテンションも最高潮。皆さんこのためにいらしたと言っても過言ではなく、それぞれの個性を確かめるように飲み比べてらっしゃいました。そして新しい味を楽しみながら、トークショーは始まります。

司会者:サッポロビール株式会社 ブリューイングデザイナー 新井健司氏
登壇者:サッポロビール株式会社 チーフアートディレクター 田中章生氏
P.K.G.Tokyo アートディレクター 柚山哲平
P.K.G.Tokyo デザイナー 白井絢奈

※以下、トークショーの内容を抜粋。(敬称略)
(制作過程のラフデザインなどをスライドしながらトークショーを進めました。)

新井:本日は特別にお呼びしたスペシャルゲストの方々に、SORACHI 1984のパッケージができるまでの裏話をお話いただければと思います。

新井:最初に私からデザイン依頼時のオリエンについてご説明いたします。まずご説明したのは、このビールのストーリーからです。今回の商品に使用するソラチエースは北海道岩内町において野生のホップが発見され、同空知郡上富良野町で品種開発され誕生します。そして「SORACHI ACE」としてサッポロビールより世界に発表されました。ヒノキやレモングラスのような香り高い個性的なホップは、海外で高く評価されました。ですが日本では無名のままで、私がドイツに留学したときにソラチエースの話題が出た際、恥ずかしながらサッポロのホップだということを知りませんでした。そして私はこの伝説のホップを多くの日本人に伝え、気軽に飲めるような状況を作らなくてはいけないと心に決めたのです。日本からアメリカへ渡り、そこで世界に認められたソラチエース。誕生から35年の時を経て、日本で新しい商品として発売するのが今回の商品、「SORACHI 1984」です。このストーリーを踏まえ、デザインに求めたのは「日本らしさ」をもった凛とした力強いパッケージでした。ですが「日本らしさ」を表現する方向性にも色々あります。今回は屏風のような煌びやかな世界観や、伝統工芸品のような繊細な世界観ではなく、わびさびを感じるようなシンプルな強さを出した王道感のあるパッケージをお願いしました。それでは実際にデザイン案をご覧いただきながらお話しいただければと思います。柚山さん、お願いいたします。

柚山:皆さんのお手元にもあるSORACHI 1984のデザインですが、ここまでたどり着くのにはかなり紆余曲折がありました。はじめにご提案したものは、完成品とはまったく違うデザインばかりです。初回のプレゼンでは「日本らしさ」への様々なアプローチや王道感、ビールのシズル。あらゆる面からデザインの方向性を探っています。ご覧いただいているのは一部ですが、シンプルかつモダンなマーク化をした案、鮮やかな色を使用した案、王道のオーバルをあしらった案などです。最初の時点では現行パッケージのようなホップをメインにあしらった案はありませんでした。この段階でホップは、ほんの少し飾りとして登場しているくらいですね。

新井:ありがとうございます。田中さんはこのプレゼンを受けて、どう考えていましたか?

田中:パッケージデザインを依頼する中でも「SORACHI 1984」は表現の範囲をしぼったオリエンをさせていただいたのですが、そんな狭い範囲の中でもかなり広げて提案いただいたと思っています。そして、和が強すぎて偏ったデザインになっていないか、長く生き残っていける商品であるか、という観点で見ていました。今ご覧いただいているデザイン案は実は2回目、3回目のプレゼン内容も合わさっているものですが、どの案もそういった視点で絞っていければと考えていました。

新井:ありがとうございます。我々のオリエンを聞いて白井さんはどのように感じてデザインされましたか?

白井:私は最初のオリエンを聞いて、かなり和のテイストを意識して制作していました。例えば書をモチーフにした案だったり…案が絞られていくにつれ、和に寄りすぎた案から離れ、和とのバランスを探っていけたなと思っています。

新井:ありがとうございます。デザインをする際の「表現したいこと」と「どれだけお客様に認めてもらえるか」のバランス。どこまで攻めるか。またはどこまでで引くかという実例を、生々しい形でご覧いただけたかと思います。それらを踏まえた上での最終段階がこちらです。柚山さんお願いいたします。

柚山:最終段階では、アイコン化の可能性を探りました。言い換えれば「現代におけるホップの家紋」を作ろうという試みです。とは言え表現は様々。ホップをもっと抽象化した案だったり、もっと具象的なホップの表現を当て込んでみたり。ようやく見覚えのあるホップのデザインが出てきましたね。ここまで来るとかなり最終形に近づいています。象徴的なアイコンとしてホップを見せるというのが今回のパッケージの大きなポイントです。パッケージを覚えてもらうことはもちろんなんですが、「ホップに特徴のあるビールなんだ」ということをワンビジュアルで表現することが目的です。

柚山:また細かい話ですが、もうひとつ重要なことが。お気付きの方もいるかもしれませんが、最初のパッケージデザイン案では「伝説のホップ ソラチエース」というキャッチコピーが入っていました。ですが、最終段階では「伝説のホップ」と短くし、「ソラチエース」部分はSORACHI 1984という英文商品名に任せる変更をご提案しました。これは非常に大きな変更です。「伝説のホップ」を強く言い切ってしまうことは、ホップをアイコン化するということと同じぐらい重要なことだったと思っています。

柚山:そうして、田中さんと新井さんに最終的にセレクトしてもらったのがこのふたつの案。ホップアイコンのデザイン案にするのか、別の案にするかは実はものすごくせめぎ合っていました。どちらの方がよりSORACHI 1984に相応しいか。世の中にどう受け取られるのか。思案の結果、この2案を調査にかけることとなりました。新井さん、この2案の評価はどうだったんでしょうか?

新井:実はこの2案には、あまり大きな評価の差はなかったんです。ですがビールといえばホップという「わかりやすさ」の点で、今皆さんのお手元にあるホップの絵柄が入った案に決定したという経緯です。

柚山:実は完成品のホップにはうっすらエースの「A」がいるんです。これは新井さんの強いこだわりで、「ただのホップではなく、これはソラチエースである」ということを表現したいとの思い。ソラチエースのアイデンティティとも言えますよね。

新井:そうですね。最終のデザインについて、田中さんはどうですか?

田中:最後に調査にかけた2案については、社内でも意見が割れていたんです。社内でも別案で行こうという意見もあったりしました。SORACHI 1984には日本で生まれアメリカで有名になったホップを使っているというストーリーがあります。でもストーリーを知らないお客様にもSORACHI 1984を飲んでもらおうと考えた時、ホップのアイコン案の方が相応しいと感じました。ビールというのは金色を綺麗に見せると、より美味しそうに見えます。また、スタイリッシュすぎるとどんな味かがわかりにくくなってしまいます。それらを踏まえ「ビール」を感じてもらうために、「白と黒と金」という絞った色の構成でホップのゴールドを目立たせていくのがいいと思いました。何百人というお客様にもアンケートを取った結果、広く長く愛されるデザインは具体的にわかりやすいホップのデザインなのかなと。そしてソラチエースの「A」は大きく目立つように入れるのではなく、少しだけ違った金色で表現し、隠し味として入れ込みました。そういった経緯を経て、今ご覧いただいているデザインに仕上がったんです。

新井:ありがとうございます。ひとつのパッケージデザインが世に出る裏には「何が実現できて」「何が実現できなかったか」がたくさんあります。そんなことを気にかけて、新しい視点でパッケージデザインを見ていただくとまた、面白いかもしれません。
それでは改めて、今日お話しいただいた3名の方、柚山さん、田中さん、白井さんありがとうございました。

P.K.G.Tokyo ディレクター:柚山哲平

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