クライアントとの打ち合わせでは、いろいろなオーダーをいただくことがあります。「こんなイメージにして欲しい」であるとか、「女性(または男性)らしくして欲しい」であるとか。そういった条件を積み重ねて行くと、だんだんとクライアントのイメージする顔つきが浮かび上がってきます。そして、たくさんのオーダーの中、面白いのがパッケージの国籍。過去のオーダーではこんなものがありました。
「中国をはじめとしたアジア圏で販売するのだが、ヨーロッパ的な見た目にして欲しい。ただ日本製ということはアピールになるので積極的に取り入れて欲しい」。話に矛盾はありませんが、中国の人々から見たヨーロッパの魅力を日本人が考えるのはなかなかに難しい。それに、一括りにヨーロッパと言っても国も時代もいろいろあります。思案の結果、絵の具という商品であることを踏まえて、歴史を感じるアールヌーヴォー調の紋章のようなデザインに落ち着きました。
もっと意図的に国籍を演出したものもあります。
このコーヒーのパッケージの開け口にはアフリカンテキスタイルのパターンを盛り込みました。「本格派」な味わいを表現するために、世界の民族衣装の資料集とにらめっこをしながら作った、オリジナルの幾何学パターンです。日本にも一松や籠目に代表される幾何学模様はたくさんありますが、文化の違いや民族の違いはパターンひとつ取ってもこんなにも違う。それらを研究して形にして行く作業はとても楽しい時間でした。研究と表現こそ、グラフィックデザインという仕事の面白さだと思います。
このチョコレートクッキーのキャラクター性は「陽気なイタリア人」。派手なスーツも着こなしてしまう、おしゃべりだけどイイ男です。これはもちろんジャンドゥーヤというトリノ発祥のチョコレートを使っていることが一番の由来ですが、楽しくおしゃべりしながら家族や同僚とお土産を分けあって団らんする。そんなシチュエーションを想定したからでもあります。ロゴタイプやストライプで、まるでサーカスのように明るく楽しいイタリア人の国民性を表現したパッケージです。
これまでに挙げたものは国籍という観点でチョイスした一例ですが、パッケージには国籍だけでなくストーリーやキャラクターといった個性があります。誰がどんなシチュエーションで買うのかを掘り下げて行くと、そのターゲットの購買プロセスに沿ったその商品の個性が見えてくる。いつも日常的に見ているパッケージでも、そういう目線で見ると新しい発見があり非常に面白いです。「きっと、このデザイナーはこういうキャラクターにしたかったんだな」と、その人の思い入れや意図が見えてきます。今度、あなたが気になるパッケージを見つけたら、Where are you from?と聞いてみてください。きっといろんな国や性格のパッケージと友達になることができます。
P.K.G.Tokyo ディレクター:柚山哲平