P.K.G. MAGAZINE | パッケージを考える

REPORT

包むー日本の伝統パッケージ 目黒区美術館

2021.07.30

戦前からアートディレクターとして活躍する一方で、
自然の素材が生かされたパッケージに魅了され、収集を続けた岡秀行さんのコレクションを
集めた展示「包むー日本の伝統パッケージ」。目黒区美術館を訪れました。

館内は「木」「竹」「笹」「藁」「土」「紙」と素材別に分けられており、
それぞれの素材を生かしたパッケージが展示されています。

左 ささらあめ:宮城県/熊谷屋
中央 濱焼桜鯛:岡山県/株式会社 鯛惣
右 岡山獅子:岡山県/中尾正栄堂

ささらあめ
ひご竹の先に小さなさらしあめをつけ、それを竹筒に差し込んだシンプルな形状。
素材の特性を生かした放射状に広がるかたちは見た目にもとても面白く、可愛らしさもあります。
残念ながら現在は作られていないとのこと。竹ひごに飴を付けるのが難しそうですね…
濱焼桜鯛
竹皮で編んだ菅笠を二つ折りにした形。風通しがよく、運搬し、一時保持するために機能的な形状。

左 釣瓶酢:奈良県/釣瓶酢弥助
中央左 おひねり
中央右 真盛豆<利休井筒>京都府/金谷正廣
右 鬼づら 香川県

おひねり
おひねり、はまさに「チップ」のこと。一見お菓子が入っているのかと思いきや、お金でした。
例え、とっさのことでもむき出しを嫌う日本人的感覚の所産。
包むという面白さ、さっとした所作から生まれる紙の大胆な美しさに目を奪われました。

どのパッケージデザインも現代では私たちがなかなか目にすることの無いものが多い印象でした。
現代では量産にはなかなか向かない形状、またパッケージ費用を考えると製造は困難と感じるものも。
しかし素材の特性や形状を大胆に生かしたり、細密さに富んだデザインは非常に新鮮です。
特に竹や藁などを使ったパッケージでは、様々な編み方で異なる形状を作りだしたものが多く、
素材を無駄にせずいかに機能的に作り上げるかという作り手の考えを感じました。
よく一つの素材で、ここまで考えられるのかと驚かされます。

展示のなかで、岡さんの言葉が印象的でした。

ー豊かな暮らし、豊かな社会というそれまで一度も疑われようとしなかった大きな目標が
いったい本当に正しいのかどうか、密かな疑問が生まれつつある。
伝統パッケージを単なる古き良き自体の記念碑に終わらせてはならないであろう。
人間のこころそのものに光を当てた新しい価値観が来るべき時代の方向を決することは疑いを入れない。ー

目まぐるしく変化していく時代のなかでのパッケージデザインの在り方とは何なのか、
もう一度立ち返らなければならないのかもしれません。展示を通し、改めて考える機会となりました。
今回の写真以外にも、非常にたくさんのパッケージコレクションが展示されており、
とても楽しかったです。是非足を運んでみてはいかがでしょうか。

-包む 日本の伝統パッケージ
7/13(火)-9/5(日)まで 目黒区美術館
午前10時-午後6時(入館は午後5時30分まで)

P.K.G.Tokyo
大西あゆみ

REPORT

中身もサイズも!ミニマルなバレンタインパッケージ

2021.02.12

バレンタインの季節になるとかわいらしいパッケージがお店に沢山並び見ていても楽しいですね。数年前からカカオ豆の仕入れからチョコレート製造まで一貫して行うBEAN to BARが海外を始め日本でも流行しています。BEAN to BARとは単一のカカオ豆と砂糖だけを原材料としたシンプルな作りで余分なものが入っていない為、カカオそのものの味わいや深み、香りが楽しめるのが特徴です。
今回はそんな中身もサイズもミニマルなチョコレートバーのパッケージを紹介します。


BAHEN & CO(オーストラリア)
ワインの醸造化家だったバーヘン氏が立ち上げたチョコレートメーカー。
コーヒー豆を使用した深みのあるチョコレート。
風合いのある紙へ豆の種類別に印刷されたグラフィカルな柄が可愛らしいパッケージ。
フレーバー豊かでついつい何種類も買いたくなってしまいますね。

●HOUSE BLEND 70%CACAO
●COLOMBIAN COFFEE 70%CACAO
●CHERRY & COCONUT 70%CACAO
https://www.bahenchocolate.com/ 


Le chocolat des Français(フランス)
チョコレートとアートが大好きな2人のデザイナーによって作られたチョコレートバー。
いかにも!チョコレートを愛しアートを重んじるパリジャンらしいデザイン。
蛍光の特色が映えていて、男女がダンスしているイラストがキュート。店頭では出会えなかった、目がハートになったモナリザ、自撮りをしているマリーアントワネットのイラストなど、遊び心満点なパッケージも。限定パッケージの男性と女性の横顔パッケージは合わせるとキスしているようなペアパッケージに。こちらも是非チェック。

●Extra dark chocolate with hazelnuts
●Milk chocolate with hazelnuts
https://www.lechocolatdesfrancais.fr/fr/


左:THEO PHILO(フィリピン)
こちらはフィリピン発のBean to barチョコレート。こちらは今までのような紙巻きではなく、ひとつひとつが箱に入って箔がふんだんに使われたリッチな仕様。フレーバーによってモチーフになる動物や植物が変わります。
今回選んだバーはバラココーヒー豆が使用されたミルクチョコレート。バラココーヒーとはフィリピンを代表するイベリカ種のようで深いコクが特徴。「バラコ」とはタガログ語で「強い男」を意味するほどしっかりと焙煎され、ブラックで飲まれることが多い品種だそうです。

● MILK CHOCOLATE BARAKO COFFEE
http://theoandphilo.jp/

右:PUMP STREET CHOCOLATE(イギリス)
イギリスの小さなベーカリーが立ち上げたチョコレートバーブランド。
パンを焼くオーブンで焙煎された豆から作られたこちらのバーは、カリカリシャリシャリとパン粉の食感が楽しめると話題になりました。こちらのパッケージはアルミ袋でカラーフレーバーがとっても上品。手触りはマットで仕上げられており、パン屋さんを思わせるような温かみもあります。

●CACAO85% ECUADOR
●CACAO66% SOURDOUGH & SEA SALT
https://pumpstreetchocolate.com/ 

どれも海外から輸入された商品でそれぞれユニークなグラフィックや仕様。
手のひらサイズでフレーバー豊なので、ついつい何種類も購入したくなってしまうようなパッケージばかり!見ているだけでも楽しいですね。クラフトチョコレートは一般的な百貨店等に並ぶようなギフトチョコレートとは異なり甘すぎないカジュアルなパッケージでまた別の魅力がある世界です。
今年のバレンタイン、身近な方へちょっとしたプレゼントにいかがでしょうか。

P.K.G.Tokyo 横田栞

REPORT

“スイスのデザインから紐解くこれからのデザイン”

2020.11.20

”スイスのデザインから紐解くこれからのデザイン領域と思考に触れる展覧会”
「FormSWISS展」は、グローバルデザインプラットフォーム「Form」(スイス、イギリスを中心に欧州で長年活動していたデザインディレクター丸山新さんが主宰する)が在日スイス大使館の協力のもと開催する”デザイン大国”スイスの現在進行形のビジュアルコミュニケーションデザイン(グラフィックデザイン、タイポグラフィ、モーショングラフィックスなど)と、そのデザイン的思考やライフスタイルにフォーカスするデザイン展。小さな村や街から国境を超えて世界のデザイン界に影響を与えているデザイナーを中心に、デザイン大学、美術館などへのインタビュー映像の上映や、現在のスイスデザインを代表するトップデザイナー達の作品展示など。スイスの多様なデザインや教育、ライフスタイルや価値観などをデザイン的視点から多角的に紹介されていました。

私が足を運んだのはギャラリースペースを併設する学芸大学の古書店「BOOK AND SONS」。向かったのは平日の昼下がり、女性が1人、2人ほど居ました。「BOOK AND SONS」ではスタジオ・ギャヴィエ&シや、ECAL(ローザンヌ州立美術大学)など6組の作品が展示されていました。 会場はその他2つ(表参道・原宿)に分かれていて、いずれも気鋭の建築家・中村竜治さんがが会場構成を手がけられたそうです。 会場を訪れると、コンクリートブロックと展示物が床に置かれていて、人はそのブロックの上を歩いて回るようになっており、俯瞰して展示物を見るように設計された空間はまるで私たちデザイナーがよくデザイン案をテーブルに並べ、俯瞰し眺める時と同じような感覚で楽しむことのできる設計でした。

スタジオ・Balmer Hahlen(バルマー・ヘレン)
●FCMA 20 ans, Visual identity 2017 スイス音楽基金の創立記念式典のデザインの一部。五線譜とドットで表現された音符が絡みあっている楽譜を表現し、動きとリズムが表現されています。

●Rendez-vous des createurs, Visual identity 2017 印刷でのグラフィックアートやデザインを行っているプロフェッショナルから9人を選びローザンヌで毎年行われる印刷展の為のアイデンティティーの一部。 動いて見えるような紙の形状やきらびやかなインキ加工など、凝られた印刷物を見るとまだまだ紙にも興味を持ってもらえそうだと感じました。


●Achrome-Piero Manzoni, Poster 2016 Piero Manzoni「単色画」展のポスター。こちらも印刷加工に凝っていて、シルバー紙にグラデーションのかかった白のグラフィックでキラキラとした見え方が素敵です。

また、フォントにも注目。
スタジオ・Futur Neue(フートゥル・ノイエ)さん
●Theatre Saint Gervais Geneve, Visual identity. 2018-present(上) ジュネーブのサンジェルヴェ劇場のアイデンティティ。こちらの使用書体は全て オリジナルなんだとか。
ECAL/University of Art and Design Lausanne (ローザンヌ州立美術学校)
●Fingers Crossed, Newspaper, 2020(下) 学生が実際に香港で香港デザイン研究所との共同リサーチを行い、編集、デザインを学生が行ったもの。 「幸運を」を意味する中国語のタイトルもオリジナルで作られたフォントです。 ローザンヌ州立美術学校では、世界各国の一流企業とコラボレーションし、様々な国で在学生の作品展やプロモーション活動を行い、各業界でも世界的に話題になっているそうです。

これらは展覧会のほんの一部で、原宿や表参道の会場では文房具最大手のコクヨのコラボ商品で、スイスのJonas Voegeli(ヨナス・フーゲリ)さんがリデザインしたキャンパスノートや、出店デザイナー達による「Form=かたち」をそれぞれに表現したオリジナルデザインのTシャツやトートバックなどがあったそう。
たとえば冒頭の音楽基金の創立記念式典のデザインですが、日本的デザインなら人や楽器の写真が入ったり、もっと多くの文字が入ったりと説明的なヴィジュアルになりがちですが、スタジオ・Balmer Hahlenの作品はとても抽象的。説明的すぎず、シンプル。そこに想像力をくすぐられておもしろいヴィジュアルだなと感じます。この様な展覧会が開催されて私も含め多くの方が影響を受けたと感じます。今後もデザイン大国スイスに限らず、他の国のその国ならではの展覧会が開催されるのが楽しみです。

P.K.G.Tokyo 横田栞

REPORT

手にとりたくなる”形”について。

2020.04.24

いよいよ初夏ですね。外も暖かくなってきましたが 新型肺炎流行により外出自粛を余儀なくされている方も多いのではないでしょうか。 こんなときだからこそお家で楽しめることはないかと、お家で作るクラフトペーパーが今話題だそうです。 一枚の平面紙からできる立体物を作るのって、ワクワクしますよね。 パッケージでも大事な要素、紙で作る「形」について本の紹介をしたいと思います。

思わず手にとるパッケージデザインというタイトルのこの本にはパッケージそそのものの形に注目して、形状で美しいと感じるものや可愛さを感じるもの、ユニークなデザインが紹介されています。「モチーフ型」「フォルム型」「バッグ型」のチャプターに別れて様々な商品が紹介されており、それぞれに展開図も掲載されているので、実際に自分で作ってみることもできる内容です。

 

「モチーフ型」の中では、具体的なモノの形を模したデザインを紹介。ハートの形、本の形、電車の形…特に猫やうさぎなど、アニマルの形に模したデザインは店頭でもパッと手にとってしまうような可愛さがあります。

 

「フォルム型」の中では、パッケージそのものが特徴的でパッケージの一部がモノの形を模し、装飾要素となっているデザインを紹介。上の写真は日本酒・大吟醸のパッケージ。途中から折りを入れないことで、紙素材を活かしたなめらかな形を作っておりとても美しい形です。中央の穴がしずくのような形をしておりアイコンになっています。

「バッグ型」の中ではパッケージに持ち手がついているデザインを紹介。街でも気にして見ていると、お菓子や酒類など手持ち付きのパッケージって意外と多いなと感じることがあります。上のお菓子のパッケージは中身を包むような形のバック型に取手がついていて、ショップバックに入れずにそのまま渡せるようなかわいらしいデザイン。他にも、取って部分にリボンがついて、女性が持つスカーフ巻きのバッグのようなおしゃれなものやアニマルの顔に持ち手がついたものなどユニークなものがが掲載されていました。

私も、いくつかトライしてみました。一見するだけでは想像しきれない展開図でしたが、構造を理解して組み立てることができたり、構造次第で途切れない紙アミ目の作り方を知ったり、より立体的に作る方法を知ったりといくつか発見がありました。かわいい箱やショップバックって、店頭で手にとりたくなるだけでなく、誰かに贈りたいと思ったり購入してからもついついストックしてしまったり、小物入れにしてしまったりしませんか。誰かにとって、そういった「ときめく」パッケージが作れればと改めて思いました。店頭に並ぶパッケージとしてだけで終わらない、「ときめく」パッケージ作りをしていくためにこれからのデザインアイデアの手助けになりそうです。

 

思わず手にとるパッケージデザイン

仕様:B5判(257×182mm)221ページ

発行元 :PIE International

URL:https://pie.co.jp

 

P.K.G.Tokyo:横田栞

COLUMN

手作業で紡ぐ、伝統の伊勢型紙

2020.04.05

先日発売された「UMESHU THE AMBER」。弊社でそのデザインを担当させていただきました。中身の紀州梅酒になぞらえて、伊勢型紙をデザインに使用しています。その際に三重県にある伊勢型紙協同組合様まで取材に行ってきました。今回はその一部を紹介させていただきます。

伊勢型紙とは、友禅、ゆかた、小紋などの柄や文様を着物の生地を染めるのに用いるもので、千有余年の歴史を誇る伝統的工芸品(用具)です。和紙を加工した紙(型地紙)に彫刻刀で、きものの文様や図柄を丹念に彫り抜いたものですが、型紙を作るには高度な技術と根気や忍耐が必要です。昭和58年4月には、通商産業大臣より伝統的工芸品(用具)の指定をうけました。
ー伊勢形紙協同組合HPより引用

現物を見せていただきましたが、手作業で彫り抜いているとは思えない精密さ。梅酒のパッケージに使用するため、梅をモチーフにした柄のご紹介をお願いしたのですが、それだけでも80種類近くもの伊勢型紙がありました。こういった伊勢型紙は四種類の彫り方を組み合わせ、様々な柄を形成しています。

引彫り
左手で定規を押さえ、右手に鋭利な彫刻刀をもって均等の縞を彫っていきます。最高のものでは3cm幅に31本もの縞が彫られています。染める時に縞が動かないように糸入れされます。

突き彫り
彫刻刀の柄を右頬にあてて左手で刃先を調整しながら上下に動かし、7〜8枚の型地紙を穴板の上で突くようにして彫ります。彫り終わったものは型紙を補強するために紗張りされます。

道具彫り
彫刻刀自体が紋様のひとつの単位になっていて、柄尻に親指をあて強く押して型地紙を打ち抜きます。彫刻刀はそれぞれ彫る人が自分で作ります。

錐彫り
江戸小紋を彫る最も古い彫り方で、半円形の細い彫刻刀を左手で回転させて小さい孔をあけていきます。小紋柄の最高のものでは、3cm四方に900個もの孔があけられます。

単純な柄ほど少しのズレやミスがひと目みてわかってしまうため難しいそうです。難しい柄だと一枚の制作に一ヶ月近くかかることもあり、大変な根気と集中力が必要な作業です。職人様それぞれに得意な彫りの技法があり、お互いの技術を組み合わせることで一枚の作品が出来上がります。

柿渋で貼り合わせた型地紙は、伸縮性もなく普通の和紙に比べ耐久性に富みます。しかしあくまで紙のため、永久に使えるわけではありません。先人たちが築いた様々な柄の彫り方を、現代の職人様方が引き継ぎ、そして日々改良を重ねています。そうして磨かれた技術でまた新たな図柄が生まれ、引き継がれていきます。

私たちパッケージデザイナーは多種多様なクライアントの要望に応えるため、その都度考え方や制作方法を考えます。同じパッケージといっても、完成に至るまでのプロセスは様々です。同じ作業を繰り返すことはほとんどありません。対して伊勢型紙の職人様方はひとつの彫り方を極め、日々の仕事のほとんどをその技術の向上と改良に集中しています。そこから生み出される作品は緻密で手作業でありながら手作業による隙を感じさせず、しかし人の手で作ったからこそ生まれる味わいが共存しています。縞彫りのストライプひとつとっても、整然としているのにどこか温かみを感じます。パソコンでデータをただ均等に配列しただけでは作り得ない佇まいだと思います。

現在、伊勢型紙の需要は減りつつあります。職人様の数も随分減ってしまったそうです。理由は昔と比べ着物の需要が減ったこと、また他の安価な染色の技術が発達したことにあると思います。しかし伊勢型紙の伝統は他にはない素晴らしい技術として受け継がれるべき文化です。

今回はそんな伊勢型紙の図案を紀州梅酒のパッケージデザインに使用させていただきました。初めはただその美しさに惹かれてデザインに使用させていただきましたが、取材を経て新しい需要の形を作って伝統を繋ぐための一端を担えればと思っています。ベクトルは違いますが同じくモノを作る物同士、お互いの技術を組み合わせることで新しい切り口で伊勢型紙を世に出すことができたと感じています。「売れるため」「目立つため」のための綺麗さに止まらず、こうしたバックグラウンド含めデザインの価値になればと思います。


伊勢形紙協同組合
http://isekatagami.or.jp/

P.K.G.Tokyo : 白井絢奈

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