P.K.G. MAGAZINE | パッケージを考える

COLUMN

SDGsはデザイン経営のスタートライン。

昨今、電車や取引先でスーツの襟元にカラフルなSDGsのバッジをつけている方をよく見かけるようになりました。SDGsに対する取り組みがひとつのトレンドとなっている証拠です。もちろんサステナブルなわけですから、トレンドで終わってしまっては意味がなく、如何にして各企業がその取り組みを継続して行くかに注目しています。

2015年9月に国連で採択されたSDGs。その17のゴールはどれも社会にとって理想的な目標で、人々の生活や環境を守って行くための指針となっています。しかし、どうして経済活動一辺倒だった社会や企業が今、SDGsに熱心に取り組むのでしょうか。私はSDGsが企業を評価するひとつの基準となったからだと考えます。ものに溢れ、ものの価値が飽和した社会において、選ばれるためにはエンドユーザーが共感できる価値観が必要です。利己的な行為を繰り返す企業が支持を得られないのは当たり前ですが、逆を言えば理想的な社会づくりに一役買おうと一生懸命な企業を応援したいと思うのも人情です。しかし、それだけではこれまでの環境保護活動やエコロジー的思考と変わりありません。利己的な生産の贖罪として、莫大な利益の一部でまかなう曖昧な環境保護は常に懐疑的に見られてきました。それに比べてSDGsは目標を項目分けすることで、個々の企業がそれぞれ取り組んでいたことを分別し当てはめることができた。例えるなら、今まで「陸上競技」とされていたものを100m走、マラソン、高飛び、といった種目に分けたのです。それらのスポーツが同じ場所でルールなく行われていたとしても、我々は何を見ればいいのかわからなかった。SDGsは公に項目化することで、その企業が各ゴールに対しどれだけ真摯に向かい合っているかがが理解しやすく、さらには評価しやすくなったのです。それはSDGsが企業の評価基準になり得るということでもあります。
SDGsによる項目化は実施する企業側にもメリットがありました。2030年時点までに達成すべき目標が明確になることは、今取り組むべきテーマが具体的になったとも言えるからです。やるべきことがわかり、それが評価されるならばそれは企業にとってもチャンスです。「自らを生かすために、人のためになることをする」。SDGsを偽善的な理想論と捉えるのではなく、自らの経済活動の延長線上にあるゴールだと考える企業にこそ、リテラシーある社会からの評価が集まるのではないでしょうか。

企業がSDGsに取り組む際、17の中からセレクトするゴールとその実施内容は、経営理念によって定まると私は考えています。それはたとえ創業時と異なる事業となった企業であっても、脈々と受け継がれている理念は変わらずそこにあるからです。その事業を通じ、社会に貢献し利益を得る。理念と利益が対となっていなければ、企業は成立しません。創業時から培ってきたことだからこそ、SDGsへの取り組みと本来その企業が目指すべきゴールは重なるはずなのです。

少し話の切り口を変えましょう。2018年5月に経済産業省・特許庁は「デザイン経営」宣言をしました。
これまで、デザインは後付けで見た目を良くすることだと考える企業がほとんどで、経営とは縁遠いものだと認識されてきました。デザインという分野が専門性の高い分野で定義づけが曖昧であることがその認識に拍車をかけ、嗜好品のように考えられ「デザインは余裕のある企業が行うこと」ぐらいに軽んじられてきたように思います。
しかし「デザイン経営」では世界の有力企業がトップダウンでデザインに注力し、大きなブランド力を発揮していることを引き合いに、デザインが経営の大きなファクターであることを提言しています。

https://www.meti.go.jp/press/2018/05/20180523002/20180523002-1.pdf
※デザイン経営 – 経済産業省

SDGsを契機にデザイン経営のスタートラインに立つ。企業がSDGsに取り組むため、自社のルーツを見つめ直す時。その時こそデザイン経営にシフトするチャンスであると私は考えています。企業理念に基づきSDGsに取り組むなら、自分たちのことを社員にも他者にもわかるように説明できなければなりません。「なぜ私たちはそのテーマに取り組むのか」。デザインが持つ力は可視化による共感です。ルーツやヒストリーを可視化しステークホルダーと共有しましょう。パーパスを可視化し社会と共有しましょう。コーポレートアイデンティティを再定義しブラッシュアップしましょう。目指すべきゴールを見据え、理想の働き方やオフィスを可視化しましょう。それらはすべてデザインによって可視化されることで達成されるものです。社長直轄のデザイン戦略室を設置し経営戦略のベースにデザインを組み込み、内外に向けアイデンティティを再確認するのです。そして、商品やサービスにおいてもそれは言えること。価値を可視化しエンドユーザーに届けましょう。価値は相手に届かなければ無価値です。UI・UXであれ、プロダクトデザインやパッケージデザインであれ、人はデザインを通してコミニュケーションするのです。デザインを無視して価値を届けることはできません。「デザインは余裕のある企業が行うこと」という考えは、極論を言えば社会とコミニュケーションしないと宣言しているようなものです。ものを作れば売れる時代は終わりました。ステークホルダーが共感でき、ブランドをそこに見い出すためにはデザイン思考による経営が不可欠なのです。

P.K.G.Tokyo ディレクター:柚山哲平

COLUMN

素材から社会を見渡す 〜 三井化学グループ「そざいの魅力ラボ : MOLp®」〜

私たちの暮らしの中にある小さな疑問や願い、現代の社会が抱える大きな課題を「素材」で解決することができるのか? 「素材」の魅力を再発見しながら、化学式を用いることで様々な問題や課題の解決を目指す、三井化学さんの社内オープンラボラトリー活動「そざいの魅力ラボ:MOLp®」 (https://jp.mitsuichemicals.com/jp/molp/)。プラスチックを単に悪いものとして排除するのではなく、その利点や特徴を活かしながら、これからの社会に適応させていく創意と工夫、そして「頭の柔らかさ」・・・。実際に素材に触れることで知ることのできる新しい体験は、「こんなことができるのか!」「こんな考え方があるのか!」という発見と共に、「未来」をはっきりと感じることのできる時間となりました。

■「NAGORI®」樹脂 (熱伝導プラスチック)
「美味しく食べられるプラスチックの食器があったらいいね!」 この一言から生まれた「NAGORI®(波残)」樹脂は、海水のミネラルから生まれたイノベーティブ・プラスチックです。世界中で淡水にアクセスできない人の数は10億人と言われており、世界の各地で、海水をフィルターで濾し淡水に変える活動が行われています。この海水の淡水化の過程でフィルターに溜まった「ゴミ」とも言えるこの海洋ミネラルを使用し、そこにプラスチックを混ぜて、プラスチック同等の成形性を持たせたものが、「NAGORI®」樹脂です。海洋ミネラルを8割近く配合することにより生まれた「陶器と同等の熱伝導性」と「重量感」を持っているため、冷たいものは冷たく、熱いものは熱く、が実現できる素材となっています。実際に氷水を入れたビアタンブラーを持ってみると、陶器でできたカップのようにずっしりと重く、ひんやり冷たく、手に触れる表面はざらりとした質感のあるものでした。プラスチックとは思えない感覚が、「美味しさ」を連想させるものとなっています。そして、そのまま海に捨てられることで、珊瑚の死滅といった新たな問題を生んでいた、濾過後の海洋ミネラルを原料として使用することで、海の豊かさが守られ、なおかつ、「どこの海水から採れたミネラルを使用しているか」が明確にわかるため、原料のトレーサビリティーまでもが実現されています。

手で触れた温度と口に入れた時の温度の乖離が大きければ大きいほど、本来の感覚が狂うことで、感覚や感性が育たないと言われ、製品自体がストーリーを持たず、重量感の無い軽々しいものは、粗末に扱っても良いという意識に結びつくと言われています。割れずに軽いという利点はあるけれど、温度を感じず軽いプラスチック食器に感じる簡素感や無機質感を、「NAGORI®」樹脂は見事に解決してくれています。

■「SHIRANUI(不知火)」(ウレタン系熱硬化モノマー)
SHIRANUI(不知火)は、メガネのフォトクロミック(調光)レンズに使用されている技術を、機能ではなく、色の変化を楽しむ「体験価値」として捉え直すことから生まれました。透明な素材が紫外線のライトを当てることによって、鮮明な赤、青、黄、緑、黒など、様々な色味に変化し、そして、時間が経つに連れて徐々に透明へと戻っていきます。この素材もこれまで難しかった糸にすることにトライしており、布への加工、服の仕立てが可能であるため、服を着用する季節、時間、街によって、それぞれ異なる色を持つ服を作ることができ、ファッションの分野でもアイデアの拡がりと実現性を持たせてくれる素材となっています。

そして「SHIRANUI」を密封包装している「スキンパック包装」。この「スキンパック包装」は、気密性が非常に高く、食品の劣化を著しく防ぐことができます。例えば肉ならば、10日程度、現状よりも消費期限を延ばすことができるそうです。肉や魚、豆腐などの柔らかい食品を密封することもできるため、フードロス削減へ貢献できる新しいパッケージの提案に大きな期待が持てるものです。また、従来のトレーに入った平置き陳列ではなく、縦型や吊るしての陳列が可能となるため、スーパーマーケットなどでの未来の陳列方法をも提案可能にしてくれています。

ここに挙げた二つの素材、製品はほんの一部ですが、その他にもMOLp®さんからご紹介いただいた素材と製品たちは、それぞれが個性的で多種多様なものばかり。そして、扱うそれら全てがストーリーを持ち、SDGsのいくつかの項目をクリアし、環境や社会に対する付加価値を持つものであるということが、驚きとともに、今まで見えずにいた視野を大きく拡げてくれるものとなっていました。

そしてもう一つ、とても興味深く見せていただいたものが、素材キット「MATERIUM」です。見て触れて、素材の質感を体験することができる、このマテリアル・ライブラリーには、素材の特徴説明として「カチカチツルツル」「グニグニぺたぺた」など、オノマトペの表現が加わっており、それぞれを触って持ち上げて、比べたりしながら、扱う際の実感として、素材を知ることができます。「限りなく透明に近いプラスチック」「限りなく凹凸の少ないプラスチック」「金属と区別がつかないプラスチック」など、ひとつひとつの素材の顔は本当に様々で、普段、紙以外の素材を扱うことや、素材の段階から見せていただく機会が少ないため、実験室にいるようなワクワクした気持ちで、素材の特徴や面白みを知ることができました。

ラボを「部活」と呼び、参加されているメンバーの皆さんが心から楽しみながら、これまで三井化学さんが継承し培ってきた素材や技術と向き合い、「機能的な価値」や「感性的な魅力」を再発見し、小さなきっかけやアイデアを、社会のために活かし、共有しようとされている取り組みは、とても刺激を受けるものでした。そして、それを「デザイン」と共存させることにより、素材の魅力を引き上げ、拡散させている点にも、共感するものが大きかったように感じます。

MOLp®さんにとっての「デザイン」とは、決して成果物としての「デザイン」のみを言うのではなく、アイデアや疑問、気づき、様々な問題と向き合いながら、それらを解決していくプロセスとその意識、そして、生み出される機能や感性が、社会にとってどんな意義を持ち、明確な形で貢献できているか否かを、常に複合的な視点で考え、実現させていくこと、その行為や仕組み全体を「デザイン」として捉えられているんだな、と、お話を伺いながら感じました。

具体的な目標を持ち、それに向けて自ら「考え」「楽しむ」こと、それが原動力。
ものづくりにおいて忘れてしまいがちな基本的な姿勢を、MOLp®さんの活動を通じて思い起こすと共に、とても楽しく、実りある時間を経験させていただくことができました。

〈三井化学グループ / 「そざいの魅力ラボ:MOLp®」 〉
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/molp/

P.K.G.Tokyo : 矢内靖子

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