P.K.G. MAGAZINE | パッケージを考える

COLUMN

愛されるブランドの裏話。 — SORACHI 1984 ファンミーティング —

2019.09.13

19年8月4日、SORACHI 1984新ラインナップの発送開始日に合わせて、1984の日にSORACHI 1984 ミッションアンバサダー“ファンミーティング”が開かれました。SORACHI 1984ミッションアンバサダーとは、飲用体験の感想やこのビールに合う料理の紹介などをSNS上で積極的に情報発信をしてSORACHI 1984を一緒に盛り上げてくれるファンの方々です。なんと1万人を超える応募の中から1984人が選ばれたそうです。選ばれた方は発売に先行して試飲缶を手にすることができたり、ミッションアンバサダー限定イベントへの参加ができます。

そして、その限定イベントであるミッションアンバサダー“ファンミーティング”にトークゲストとして、P.K.G.Tokyoアートディレクター柚山と、弊社デザイナー白井で参加してきました。

この日はまさに夏本番。日差しが照りつける猛暑日にも関わらず、たくさんの方が来場されています。ミッションアンバサダーの皆さんは当然どなたもSORACHI 1984のファンで、ビール上級者の方ばかり。アンバサダー同士、語り合う言葉にも熱が入ります。みなさんとても気さくな方々で、非常にアットホームなSORACHI愛に溢れた会です。そして、まずはサッポロビール株式会社 高島社長のご挨拶から。

SESSION、DOUBLE、ANOTHER STORY “AMARILLO”。
Amazon限定販売の新しいSORACHI 1984のシリーズお披露目に、皆さんのテンションも最高潮。皆さんこのためにいらしたと言っても過言ではなく、それぞれの個性を確かめるように飲み比べてらっしゃいました。そして新しい味を楽しみながら、トークショーは始まります。

司会者:サッポロビール株式会社 ブリューイングデザイナー 新井健司氏
登壇者:サッポロビール株式会社 チーフアートディレクター 田中章生氏
P.K.G.Tokyo アートディレクター 柚山哲平
P.K.G.Tokyo デザイナー 白井絢奈

※以下、トークショーの内容を抜粋。(敬称略)
(制作過程のラフデザインなどをスライドしながらトークショーを進めました。)

新井:本日は特別にお呼びしたスペシャルゲストの方々に、SORACHI 1984のパッケージができるまでの裏話をお話いただければと思います。

新井:最初に私からデザイン依頼時のオリエンについてご説明いたします。まずご説明したのは、このビールのストーリーからです。今回の商品に使用するソラチエースは北海道岩内町において野生のホップが発見され、同空知郡上富良野町で品種開発され誕生します。そして「SORACHI ACE」としてサッポロビールより世界に発表されました。ヒノキやレモングラスのような香り高い個性的なホップは、海外で高く評価されました。ですが日本では無名のままで、私がドイツに留学したときにソラチエースの話題が出た際、恥ずかしながらサッポロのホップだということを知りませんでした。そして私はこの伝説のホップを多くの日本人に伝え、気軽に飲めるような状況を作らなくてはいけないと心に決めたのです。日本からアメリカへ渡り、そこで世界に認められたソラチエース。誕生から35年の時を経て、日本で新しい商品として発売するのが今回の商品、「SORACHI 1984」です。このストーリーを踏まえ、デザインに求めたのは「日本らしさ」をもった凛とした力強いパッケージでした。ですが「日本らしさ」を表現する方向性にも色々あります。今回は屏風のような煌びやかな世界観や、伝統工芸品のような繊細な世界観ではなく、わびさびを感じるようなシンプルな強さを出した王道感のあるパッケージをお願いしました。それでは実際にデザイン案をご覧いただきながらお話しいただければと思います。柚山さん、お願いいたします。

柚山:皆さんのお手元にもあるSORACHI 1984のデザインですが、ここまでたどり着くのにはかなり紆余曲折がありました。はじめにご提案したものは、完成品とはまったく違うデザインばかりです。初回のプレゼンでは「日本らしさ」への様々なアプローチや王道感、ビールのシズル。あらゆる面からデザインの方向性を探っています。ご覧いただいているのは一部ですが、シンプルかつモダンなマーク化をした案、鮮やかな色を使用した案、王道のオーバルをあしらった案などです。最初の時点では現行パッケージのようなホップをメインにあしらった案はありませんでした。この段階でホップは、ほんの少し飾りとして登場しているくらいですね。

新井:ありがとうございます。田中さんはこのプレゼンを受けて、どう考えていましたか?

田中:パッケージデザインを依頼する中でも「SORACHI 1984」は表現の範囲をしぼったオリエンをさせていただいたのですが、そんな狭い範囲の中でもかなり広げて提案いただいたと思っています。そして、和が強すぎて偏ったデザインになっていないか、長く生き残っていける商品であるか、という観点で見ていました。今ご覧いただいているデザイン案は実は2回目、3回目のプレゼン内容も合わさっているものですが、どの案もそういった視点で絞っていければと考えていました。

新井:ありがとうございます。我々のオリエンを聞いて白井さんはどのように感じてデザインされましたか?

白井:私は最初のオリエンを聞いて、かなり和のテイストを意識して制作していました。例えば書をモチーフにした案だったり…案が絞られていくにつれ、和に寄りすぎた案から離れ、和とのバランスを探っていけたなと思っています。

新井:ありがとうございます。デザインをする際の「表現したいこと」と「どれだけお客様に認めてもらえるか」のバランス。どこまで攻めるか。またはどこまでで引くかという実例を、生々しい形でご覧いただけたかと思います。それらを踏まえた上での最終段階がこちらです。柚山さんお願いいたします。

柚山:最終段階では、アイコン化の可能性を探りました。言い換えれば「現代におけるホップの家紋」を作ろうという試みです。とは言え表現は様々。ホップをもっと抽象化した案だったり、もっと具象的なホップの表現を当て込んでみたり。ようやく見覚えのあるホップのデザインが出てきましたね。ここまで来るとかなり最終形に近づいています。象徴的なアイコンとしてホップを見せるというのが今回のパッケージの大きなポイントです。パッケージを覚えてもらうことはもちろんなんですが、「ホップに特徴のあるビールなんだ」ということをワンビジュアルで表現することが目的です。

柚山:また細かい話ですが、もうひとつ重要なことが。お気付きの方もいるかもしれませんが、最初のパッケージデザイン案では「伝説のホップ ソラチエース」というキャッチコピーが入っていました。ですが、最終段階では「伝説のホップ」と短くし、「ソラチエース」部分はSORACHI 1984という英文商品名に任せる変更をご提案しました。これは非常に大きな変更です。「伝説のホップ」を強く言い切ってしまうことは、ホップをアイコン化するということと同じぐらい重要なことだったと思っています。

柚山:そうして、田中さんと新井さんに最終的にセレクトしてもらったのがこのふたつの案。ホップアイコンのデザイン案にするのか、別の案にするかは実はものすごくせめぎ合っていました。どちらの方がよりSORACHI 1984に相応しいか。世の中にどう受け取られるのか。思案の結果、この2案を調査にかけることとなりました。新井さん、この2案の評価はどうだったんでしょうか?

新井:実はこの2案には、あまり大きな評価の差はなかったんです。ですがビールといえばホップという「わかりやすさ」の点で、今皆さんのお手元にあるホップの絵柄が入った案に決定したという経緯です。

柚山:実は完成品のホップにはうっすらエースの「A」がいるんです。これは新井さんの強いこだわりで、「ただのホップではなく、これはソラチエースである」ということを表現したいとの思い。ソラチエースのアイデンティティとも言えますよね。

新井:そうですね。最終のデザインについて、田中さんはどうですか?

田中:最後に調査にかけた2案については、社内でも意見が割れていたんです。社内でも別案で行こうという意見もあったりしました。SORACHI 1984には日本で生まれアメリカで有名になったホップを使っているというストーリーがあります。でもストーリーを知らないお客様にもSORACHI 1984を飲んでもらおうと考えた時、ホップのアイコン案の方が相応しいと感じました。ビールというのは金色を綺麗に見せると、より美味しそうに見えます。また、スタイリッシュすぎるとどんな味かがわかりにくくなってしまいます。それらを踏まえ「ビール」を感じてもらうために、「白と黒と金」という絞った色の構成でホップのゴールドを目立たせていくのがいいと思いました。何百人というお客様にもアンケートを取った結果、広く長く愛されるデザインは具体的にわかりやすいホップのデザインなのかなと。そしてソラチエースの「A」は大きく目立つように入れるのではなく、少しだけ違った金色で表現し、隠し味として入れ込みました。そういった経緯を経て、今ご覧いただいているデザインに仕上がったんです。

新井:ありがとうございます。ひとつのパッケージデザインが世に出る裏には「何が実現できて」「何が実現できなかったか」がたくさんあります。そんなことを気にかけて、新しい視点でパッケージデザインを見ていただくとまた、面白いかもしれません。
それでは改めて、今日お話しいただいた3名の方、柚山さん、田中さん、白井さんありがとうございました。

P.K.G.Tokyo ディレクター:柚山哲平


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