P.K.G. MAGAZINE | パッケージを考える

COLUMN

「包む」ことを想う。

「包む」ことを考えるとき、思い出される一つの詩があります。

 

包む    草野心平

霙にぬれた冷たい手々を。
母親のあったかい掌(て)が包み。
病気になった小鳥のからだを。
真綿が包む。

風呂敷のように包むことが。
風呂敷そのものが。
日本民族の愛の象徴で。
その傳統のはての包みが。
いまも生活のなかに生きている。

柏の葉で餅を包み。
紫蘇の葉で梅の身を包み。
笹の葉ですしを包み。
朴の葉で豆腐を包む。
紙に包まれた割箸。
油紙で包まれたともしび。

田を耕して米をつくりその肉身の莖をあんで米俵をつくり。
雑木を切って炭を焼き芽をあんで炭俵をつくる。

藁編みの雪の深畓。
霜焼けを包むてっけやし。
お高祖頭巾や帽子(シヤツポ)簑。

われらの先祖の智慧と愛とは。
生活の中の包みの具々を発明した。

夜中まぶたは瞳を包み。
地球のまわりを空気が包む。

註)「てっけやし」は秋田地方に古くからある藁で編んだ手袋。

 

この詩は、日本の伝統パッケージを紹介する岡秀行さんの著書、【包 TSUTSUMU – THE ORIGIN OF JAPANESE PACKAGE】の巻末に収められた、蛙の詩人としても名高い草野心平によるものであり、読む度に新たな発見と好奇心を与えてくれる、そんな一編です。

この詩を眺めていると、「包む」ことが、いつの時代もそれぞれの時代背景によって変化し、形を変えながらも、人々の心や感情、それぞれの生活に密接に寄り添いながら在り続けているものだということに、改めて気づくことができます。そして、作者の草野心平が、「包む」ということを、人々の営みを起点とする視点を持ちながら、とてもあたたかな慈しみの眼差しで捉えていたことが、理解できるのではないでしょうか。

衣食住の全てに深く関わる「包む」という行為が持つ可能性は大きく、それらすべてを飛躍させることのできる力を持つものです。社会や生活をより豊かなものにするために、これまでも多くの包みが生まれ、育まれてきました。

「包む」とは、皆さんにとってどんなもので、どんな意義を持つものでしょうか?

大好きなこの「包む」の一編が、イメージを拡張させるヒントとなり得ることができましたら、幸いです。

 

 

 

P.K.G.Tokyo 矢内靖子


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