P.K.G. MAGAZINE | パッケージを考える

COLUMN

「デザイン経営」その4/ピラミッドの頂点にあるもの

その3によりデザイン経営の「布陣」ができたならば、その2で取り上げた二つのことをいかに実践するか。「デザイン経営」において目を向けるべき二つのこととは。それは、「ブランド力向上」と「イノベーション力向上」です。今回はこのうちの「ブランド力向上」についてのお話しです。

「ブランド力」とは「他の企業では代替できないと顧客が思うブランド価値」であると『デザイン経営宣言』には明記されています。果たして「代替できないと顧客が思う価値」とはどのようなものなのでしょう。そしてその価値を「向上」させていくためにはどのようなプロセスを踏む必要があるのでしょうか。

世に知られているブランド論に「ブランド・エクイティ」というワードがあります。エクイティとは「資産」のことで、「資産」であるからには将来的に会社に収益をもたらすことが期待される経済的価値があるということ。つまり「ブランド力向上」とは、その市場の中でブランドの「資産としての価値」を上げてゆくことを表していると考えられます。

ここで、広く知られ活用されているブランド論の一つ、ケビン・レーン・ケラー教授による「ブランド・エクイティ・ピラミッド」を取り上げてみます。顧客視点で構築された三角形の図式が印象的で分かりやすさもあるのですが、それでもやはり残る学術的エッセンスと和訳の曖昧さもあってか、初見ではまだとっつきにくさがあることも否めません。それでも、ここに「代替できないと顧客が思うブランド価値」への道が示されているのではないかと注目をしてみました。

今回はそれをガイドに、さらに“超”簡略化した図で「ブランド力向上」のプロセスを描いてみましょう。

Level 1 「認知」
この段階に上がるために持つべきものは、なによりネーミングです。「命名」という言葉が示すとおり、名付けによってブランドの命が芽生えます。名は体を表すのは人名だけではなく、ブランドも一つの命を宿す人格と捉えましょう。ブランド名が決まったら、次は「姿」です。色や形により「認知」のスピードが増すに違いありません。

Level 2 「理解」(品質/印象)
「名前」と「姿」を認知してもらえたら、次は「品質」と「印象」です。「品質」は特徴や利便性を。「印象」はイメージやフィーリングを「理解」してもらい、さらには「選択」してもらう。どちらが欠けても次のレベルには上がれないので、全く疎かにできないプロセスです。試行錯誤を繰り返すことでブランドの地力が養われてゆくことでしょう。

Level 3 「共感」
理解ののちに選択される存在となったならば、さらにその上を目指しましょう。「共感」はブランドの姿や品質はもちろん、その出自や歴史、背景となるストーリー全てにおいて強い「愛着」が芽生えた状態です。これこそまさに『デザイン経営宣言』が明言する、「他の企業では代替できないと顧客が思うブランド価値」に違いありません。実力と運でここへ到達できたブランドは、その価値を維持し、さらに高めることで強固な「絆」を育て、神ブランドを目指してはいかがでしょう。

ブランド力向上のプロセスを多少なり理解できたでしょうか。ぜひ一つの指標として活用いただきたいと思いますが、「ちょっと待って、そもそもブランドなんてないし」と、日本の99.7%を占める中小企業に属する多くの方々はおっしゃるかもしれません。そのような方々には改めて振り返っていただきたい。ブランドとは資産であり、将来的に会社に収益をもたらすことが期待される経済的価値のあるものです。今からでも遅くはありません。ブランドを資産として所有してみませんか。あなた自身が顧客の一人として、欲しいもの、良いと思えるものをつくり、「命名」し「姿」を与えてあげることができれば、きっとそこから、ブランドは始まります。

P.K.G.Tokyoディレクター 天野和俊

COLUMN

「デザイン経営」その3/布陣

前回「デザイン経営」を達成すべき最大の目的を、「グローバル市場における企業競争力の向上」と言い表しました。しかしながら、グローバル市場と言われるとイメージがつかない…という企業も多くあるだろうということは容易に想像できます。そこで、もっと広く自分ごと化していただくためにも、改めてこのような言い方で話を進めてゆければと思います。

「デザイン経営」の目的は、”より大きな/新たな市場”における「企業競争力の向上」である。

いかがでしょうか。今までの市場にとらわれず、より大きな、そして新たな市場を開拓するための戦略的な経営手法が「デザイン経営」であると理解してみると、多くの企業にとって無視できないものになるのではないでしょうか。

さて、それでは「デザイン経営」を始めるにあたり、まずどんな一手を打つ必要があるでしょう。今回取り上げるべきはじめの一手とは、そう、タイトルの通り、デザイン経営の「布陣」です。

経済産業省特許庁の「デザイン経営宣言」には、実践のための具体的な取組について7つの項目が掲げられています。とても深く専門的な考察の元に導き出された実践のための7つの取組は、デザイン業界においても初めて明文化された価値あるオープンソースです。今回はそのうちの最初の3つについてを取り上げてみます。

1 デザイン責任者(CDO,CCO,CXO等)の経営チームへの参画
2 事業戦略・製品・サービス開発の最上流からデザインが参画
3 「デザイン経営」の推進組織の設置

少し読み込んでみると、これらは全て体制に関する内容であり、 1、2、3は一体であるとも読み取れます。つまり、「1.デザイン責任者」が中心となる「3.デザイン経営推進組織」が「2.(経営の)最上流からデザインが参画」する、という流れです。これらの体制を取ることが、デザイン経営のはじめの一歩であり、かつ最終形ともいえます。

経営者の隣あるいは直下に配属されるデザイン責任者はまさに「デザイン参謀」のよう。これこそがまさにデザイン経営を始め、実践してゆくための「デザイン経営の布陣」です。

いやしかし、うちにはデザイン責任者も推進組織も担える人材がいないがどうしたら良いか、という組織もあることでしょう。その場合には外部の人材や組織にアウトソーシングすることから始めましょう。社内外一体の推進組織づくりができれば、ゆくゆくは社内で賄えるような人材も育つことでしょう。組織メンバーが全て社内人材となること、それこそが最終形として理想の形かもしれません。

「デザイン経営の布陣」づくりを、デザイン経営を実践するための不可避な取り組みとして、今一度、組織の見直しをするきっかけにしてはいかがでしょうか。

P.K.G.Tokyoディレクター 天野和俊

COLUMN

「デザイン経営」その2/目を向けるべきは、たった二つのこと

その1で取り上げた「デザインラダー」では、デザイン経営の活用における企業の現在地が分かりました。しかしながら今一度、「デザイン経営」の役割と効果について立ち戻ってみる必要があるでしょうか。

現代において私たちの生きる世界の中心には経済活動があり、その活動が行われる場としての「市場」があります。かつては人口も労働力も溢れ、世界のメイン市場の一つであった日本も、すでにその地位を失っているといっても言い過ぎではなく、世界の経済は他の大きな国や新興国の市場へ向かっているのが現実です。そんなグローバル市場においても競争力のある企業が有しているもの、グローバル市場戦略の中心に据えているものとはなんでしょうか。それこそが、デザインです。そのデザインを最大限活用し、グローバル市場で戦える智恵と武器になる経営手法が「デザイン経営」なのです。

「デザイン経営」つまり、デザインと経営を合体させることで得られる効果について、経済産業省 特許庁による「デザイン経営宣言」にはこうあります。

「デザイン経営」の効果=「ブランド力向上」+「イノベーション力向上」

前述の宣言によると「ブランド力」とは「他の企業では代替できないと顧客が思うブランド価値」であり、それは企業の競争力を決定づける資産となるものです。そして、時代や場所に合わせて戦略的にマネージメントすることで、ブランドの市場価値は高めることができるのです。そのブランドマネージメントにデザインは欠かせないものに違いありません。

次に「イノベーション力」とは「社会のニーズを利用者視点で見極め、新しい価値に結び付ける」ことと定義されています。それはつまり、発明や技術革新だけではなし得ない、社会との結びつきをつくり、社会そのものを変えてゆくきっかけをつくること。それこそがデザインのもう一つの力であり、デザイン経営におけるもう一つの役割なのです。

「デザイン経営」において目を向けるべきこと。それはたった二つのこと。

それは、「ブランド力向上」と「イノベーション力向上」です。

そして、それを達成するべき最大の目的はただ一つ。

グローバル市場における「企業競争力の向上」に他なりません。

10年先の世界市場を想像すれば、日本国内市場は明らかに頭打ちです。しかしながら、新型コロナ禍による不都合や、5Gを始めとする様々なテクノロジーにより、グローバル市場がますます溶け合ってゆくことは想像にたやすいのではないでしょうか。そのためにも、これから5年10年の先を見据えて「デザイン経営」こそが、今、本気で取り組むべき課題であることを直視してみてはいかがでしょうか。

P.K.G.Tokyo ディレクター:天野和俊

COLUMN

パッケージデザインは新時代に順応できるか。

これまで歴代のヒット商品は、とても印象的なデザインが採用されています。どれも記憶に残る素晴らしいパッケージデザインです。新旧、流行り廃りはあれどヒット商品が名作デザインであることはとても多いと感じます。それは言い方を変えれば、良い商品とは良いデザインによってプレゼンテーションされていると言えるのではないでしょうか。
プレゼンテーションされているとはどういうことか。例えば、これまでにない美味しさの食品が新たに開発されたとします。その事実をコンシューマーに伝えなければ評価を受けられず、当然商品が生き残ることはできません。多くの人に価値を認めてもらうために、作り手は「新しい美味しさ」をプレゼンテーションする必要があるのです。あらゆるコミュニケーションの中で、その「新しい美味しさ」という製品の本質に最も近い位置にあるものがパッケージデザインです。一見するだけでどんな人物かわかる「顔」になることこそがデザインの本懐。コンシューマーを納得させるだけの説得力が、その一瞬のプレゼンテーションに込められているのです。「百聞は一見にしかず」という言葉がありますが、その一見をデザインで表現することこそがヒット商品の呼び水となるのではないでしょうか。

しかし、時代や社会の進化は著しく一筋縄ではいかないようです。先述した例えではありますが「新しい美味しさ」と簡単に書いたものの、同じ枠組みの中で画期的な新しさとはどのぐらい開発できるものでしょうか。各企業の努力によってコンビニやスーパーで買えるものは大体美味しいし、ひどいものはすぐに淘汰されてしまいます。ものも情報も豊かな現代において、そもそも味のイノベーションなどそうそう起こるものではありません。品質の飽和はデザインの飽和を生み、どのデザインも似た表現に偏っているのが現状です。特に言うことがないものをプレゼンテーションするために、言葉を重ねることほどひどいものはありません。
そして時代は変わり、店頭で直接購入することだけが購買プロセスではない時代になりました。同じカテゴリーの商品が並ぶ棚で、いかにしてスポットライトを勝ち取れるかを競っていたパッケージデザインの目的は少しずつ消失しつつあります。またコンシューマーとの新しい関わり方も盛んになってきました。サブスクリプションサービスは買って終わるコミュニケーションではなく長期的な利用を目的としています。これまで商品だったものがサービスとなったのです。商品の本質が変化したのであればそれをプレゼンテーションするデザインも進化しなければなりません。

これからの時代、ニーズが細分化する中で生まれるヒット商品とはどんなものになるのでしょうか。新しい時代には新しい価値が求められます。デザインで表層を取り繕う時代は終わりました。クオリティが均質化する社会において、デザイン経営に代表されるようにデザインは「顔」としてだけではない、新しい価値を体現する役割が求められています。
ビートルズは昔、前衛的で不良の音楽とされていましたが、その後誰もが聴く音楽となり今ではクラシックと言っても過言ではない。デザインもまたクラシックの領域に入ろうとしています。しかし、いまだに新しい音楽が新しいニーズに合わせて生まれるように、デザインもまた社会の変化に対応し、役割を変えながら進化していかなければいけないのです。淘汰の道を免れるため新たなベクトルにシフトすることが、デザインにも求められていると感じています。

P.K.G.Tokyo ディレクター:柚山哲平

COLUMN

「デザイン経営」その1/それ本当に必要ですか?

2020.06.21

2018年5月の経済産業省 特許庁による「デザイン経営宣言」から2年、2020年3月に「デザイン経営ハンドブック 」「デザイン経営の課題と解決事例 」を発表しました。もちろんすでに読んでいる方々も多くいることと思いますので、中身に詳しく触れることは置いておきましょう。ここでは、デザインの価値について多かれ少なかれ理解があり、デザイン経営の導入を検討してみたいという企業において、果たして「デザイン経営は我が社に必要か?」を判断するためのひとつの尺度として「デザインラダー」を取り上げます。

「デザインラダー(Ladder=はしご、手段、段階)」とは、デンマークデザインセンターが2015年に発表し提唱している、企業におけるデザインの活用度を計るためのツールです。

“The Design Ladder”
https://danskdesigncenter.dk/en/design-ladder-four-steps-design-use
出典: Danish Design Centre

この中では、企業のデザインの活用度を極めてシンプルな4つのステップに区別しています。

◇ステップ1「デザインの活用なし」
◇ステップ2「見た目としてのデザイン」
◇ステップ3「プロセスとしてのデザイン」
◇ステップ4「戦略としてのデザイン」

このツールをもって冒頭の「デザイン経営は我が社に必要か?」の判断はどのようにするのでしょうか?その答えはとても簡単です。ステップごとにみてゆきましょう。

◆ステップ1「デザインの活用なし」の企業に、デザイン経営は必要か?

【答え】必要。可能性は無限大です。
ただし、経営者に理解がない場合にはデザイン経営導入の余地なし。「経営」というワードが入っている以上は当然のことですね。導入を試みる担当者は経済産業省 特許庁の資料を駆使して、経営者に承諾を得ることから始めてはいかがでしょうか。

◆ステップ2「見た目のとしてのデザイン」活用の企業に、デザイン経営は必要か?

【答え】必要。デザインは見た目だけではありません。
デザインの一要素として見た目は非常に大切ですが、その背景にある意味や理由こそデザインの価値を伝えるものです。見た目のデザインの好き嫌いからの脱却をするためにもデザイン経営が必要です。

◆ステップ3「プロセスとしてのデザイン」活用の企業に、デザイン経営は必要か?

【答え】必要。さらに理想形を目指しましょう。
プロセスの初期段階からデザイン的思考を取り入れた開発が出来ているということは、すでにデザイン経営にリーチしていると言えるかもしれません。しかしながら、デザイン経営の本質はイノベーション力とブランド力です。そのためにもさらなるデザイン経営の活用が必要です。

◆ステップ4「戦略としてのデザイン」活用企業に、デザイン経営は必要か?

【答え】必要。更新し続けることに価値があります。
すでにデザイン経営企業です。経営者直轄のデザイン部門にデザイン責任者がおり、すべての事業部署を統括している状態であればデザイン経営の理想形です。イノベーション力とブランド力を更新し続けるためにも、引き続きデザイン経営を活用する必要があります。

結論。
どのステップにおいても、デザイン経営が必要というのがここでの答えです。しかしながら、経営者がその価値を見出すことなければ全く意味をなしません。ご自身が経営者でなければ、経営者を巻き込むか、それができなければデザイン経営をあきらめましょう。

また、このツールにおけるステップは企業の現在地を把握するためのものであって、一段ずつ上がるためのステップではないと考えています。現在ステップ1であろうと一気にステップ4の理想形を目指すのがデザイン経営です。言うまでもなく、ステップ3は2を、ステップ4は2と3を内包しています。

私たちは企業価値のポテンシャルを上げる「デザイン経営」を日本企業の99.7%を占める中小企業に活用してもらうべく、いくつかのアプローチでハードルを下げる試みをしてゆきます。この記事に続き、今後もデザイン経営のコラムを配信できればと思います。

P.K.G.Tokyo ディレクター 天野和俊

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