P.K.G. MAGAZINE | パッケージを考える

COLUMN

「包む」ことを想う。

2024.05.01

「包む」ことを考えるとき、思い出される一つの詩があります。

 

包む    草野心平

霙にぬれた冷たい手々を。
母親のあったかい掌(て)が包み。
病気になった小鳥のからだを。
真綿が包む。

風呂敷のように包むことが。
風呂敷そのものが。
日本民族の愛の象徴で。
その傳統のはての包みが。
いまも生活のなかに生きている。

柏の葉で餅を包み。
紫蘇の葉で梅の身を包み。
笹の葉ですしを包み。
朴の葉で豆腐を包む。
紙に包まれた割箸。
油紙で包まれたともしび。

田を耕して米をつくりその肉身の莖をあんで米俵をつくり。
雑木を切って炭を焼き芽をあんで炭俵をつくる。

藁編みの雪の深畓。
霜焼けを包むてっけやし。
お高祖頭巾や帽子(シヤツポ)簑。

われらの先祖の智慧と愛とは。
生活の中の包みの具々を発明した。

夜中まぶたは瞳を包み。
地球のまわりを空気が包む。

註)「てっけやし」は秋田地方に古くからある藁で編んだ手袋。

 

この詩は、日本の伝統パッケージを紹介する岡秀行さんの著書、【包 TSUTSUMU – THE ORIGIN OF JAPANESE PACKAGE】の巻末に収められた、蛙の詩人としても名高い草野心平によるものであり、読む度に新たな発見と好奇心を与えてくれる、そんな一編です。

この詩を眺めていると、「包む」ことが、いつの時代もそれぞれの時代背景によって変化し、形を変えながらも、人々の心や感情、それぞれの生活に密接に寄り添いながら在り続けているものだということに、改めて気づくことができます。そして、作者の草野心平が、「包む」ということを、人々の営みを起点とする視点を持ちながら、とてもあたたかな慈しみの眼差しで捉えていたことが、理解できるのではないでしょうか。

衣食住の全てに深く関わる「包む」という行為が持つ可能性は大きく、それらすべてを飛躍させることのできる力を持つものです。社会や生活をより豊かなものにするために、これまでも多くの包みが生まれ、育まれてきました。

「包む」とは、皆さんにとってどんなもので、どんな意義を持つものでしょうか?

大好きなこの「包む」の一編が、イメージを拡張させるヒントとなり得ることができましたら、幸いです。

 

 

 

P.K.G.Tokyo 矢内靖子

COLUMN

言葉で紐解くパッケージ。「包装」が担う十の役割。

パッケージデザインの仕事に携わるようになったのはいつからだろう。
グラフィックデザインを学び、広告業界からキャリアを始めた若きデザイナーは今、パッケージデザインを強みとするブランドマネジメントエージェンシーP.K.G.Tokyoを率いている。しかしながら、振り返ってみてもパッケージデザイナーを志していたという記憶はない。だから今の立場が自らの意志だったのか、社会からの要請だったのかは知る由もないが、パッケージデザインが面白いということはしっかりと体に刻まれたようだ。

さて、パッケージデザインの何が面白いのか。いろんな見方や切り口から面白さを見出すことができるのですが、最も特徴的なこととの一つとしては、他のグラフィックデザインの媒体と比較して「さまざまな役割を担っている」ということではないでしょうか。今回はパッケージデザインの役割を、言葉から紐解いてゆきたいと思います。

「包む」と「装う」

そもそも「パッケージ」は語源そのままのカタカナ英語ですが、日本語では「包装」がパッケージそのものを表していることと思います。熟語としての「包装」は「ものを包む」ことが主な意味合いですが、漢字をばらして眺めてみるとパッケージデザインの役割が見えてくるようです。「包装」という熟語をバラすと、「包」と「装」という二つの漢字が現れます。「包む」こと、と「装う」こと。それぞれの言葉から、さらに役割を見出します。

 

 

「包む」が担う五つの役割。

「包む」という言葉を眺めてパッケージとの連動性を考えてみると、物理的な言葉が五つ浮かび上がってきました。

1. 「守る」
2. 「保つ」
3. 「運ぶ」
4. 「分ける」
5. 「束ねる」

「守る」=壊れないようにするための緩衝材としての役割。基本的にはあらゆるパッケージに必要な機能です。

「保つ」=長持ちさせるために、保存容器としての役割。瓶や缶など、食品や飲料において求められる機能です。

「運ぶ」=移動をともなって、中身を届けるための役割。持ち易さや流通し易さを考慮した機能です。

「分ける」=大きいものや多いものを、最適なスケールに分割するための役割。並べたり、配ったりすることを促す機能です。

「束ねる」=小さいものや細かいものを、最適なスケールにまとめるための役割。セットやアソートなどで、群で見せる機能です。

これら五つの物理的な役割は、複層的にデザインされ一つのパッケージとなってゆきます。

 

 

「装う」が担う五つの役割。

「装う」という言葉からは、パッケージにどのような「服」を着せてあげるのか、というイメージで五つの言葉が現れます。

6. 「美しく」
7. 「知らせる」
8. 「価値」
9. 「利便」
10. 「配慮」

「美しく」=姿や佇まいをより美しく見せる役割。相手に届ける贈り物やギフトには必須の要素です。

「知らせる」=中身の大切さや危険度などを伝える役割。情報伝達メディアとしての機能です。

「価値」=隠れている中身の価値を表す役割。格式やブランド化を図ることもパッケージの重要な役割の一つです。

「利便」=パッケージにまつわる体験を、簡単・便利にする役割。コンパクト、軽い、開け易い、捨て易いなどの機能です。

「配慮」=環境にまつわる配慮をとりこむ役割。素材選びや循環を考慮することはこれからの時代に欠かせません。

「装う」から現れる五つの言葉からは、パッケージデザインをより魅力的にする情緒的な要素が見出されるように思います。

以上の十項目が、「包装」が担う十の役割です。
パッケージデザインは見た目だけではなく、さまざまな役割を担っているから面白い。そして、これからも、時代に合わせて役割を担うことができるデザインのジャンルの一つとして発展してゆくことを信じています。

P.K.G.Tokyo ディレクター 天野和俊

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