P.K.G. MAGAZINE | パッケージを考える

2020年7月1日からプラスチック製買い物袋の有料化が始まりましたね。
今回は、この背景にある海洋プラスチック問題についてご紹介していきます。
現在、地球上では年間800万トンものプラスチックごみが海へ流れ込んでおり、既に世界の海には合計1億5000万トンも存在していると言われています。このごみたちによる海洋汚染や生態系に及ぼす影響を問題視したのが「海洋プラスチック問題」です。水深4800mの深海にも数えきれないほどのレジ袋などが漂い続けているそうです。これらの存在は何年も前から危険視されていますが、ここ最近はその注目度がさらに高まっています。というのも、このままのペースでごみが排出され続けると、2050年には海にいる全ての生き物の重量よりプラスチックのほうが重くなると予測されているからです。

 

マイクロプラスチックとは

最も厄介なのが「マイクロプラスチック」。
これは5mm以下になったプラスチックごみを示します。
マイクロプラスチックは発生のタイミングと作られ方の違いで2種類に分けられます。
一つは「1次マイクロプラスチック」。
5mm以下のマイクロサイズで製造されたプラスチックを指します。洗顔料や化粧品、歯磨き粉、洗濯洗剤の中でプラスチック製品(スクラブやマイクロビーズ)が使用されているものに含まれ、排水などを通じて自然環境へと流出します。
もう一つは「2次プラスチック」です。
ペットボトルやゴミ袋など、大きなサイズで製造されたプラスチックが河川や海へ流れ、水流や衝突、紫外線の影響で劣化し細かく砕けマイクロサイズになったものです。
屋外に放置されたり、ポイ捨てされたりした身近なプラスチック製品が劣化し、簡単に生まれてしまいます。
これらのもとになる原料は「ポリスチレン」「ポリエチレン」「ポリ塩化ビニル」「ポリプロピレン」。まとめて「4大プラスチック」と呼ばれています。
食品用トレーや洗剤ボトル、レジ袋、ラップ、ペットボトル、包装フィルム、衣服、ストロー、文具…。どれも私たちの生活の中で様々な形となって使用されていますね。

 

生態系への影響

マイクロプラスチックになる前の大きなごみは回収が可能のようですが、マイクロプラスチックは一度海洋流出すると自然分解されることなく半永久的に海に溜まり続けてしまいます。そしてこれらは海洋中の有害物質が付着しやすい特性を持ち合わせています。

目には見えない微粒子のため海洋生物が体内に取り込みます。体内へ取り込まれたマイクロプラスチックと有害物質は体外へも排出されますが、一部が体内へ蓄積される可能性があるのです。
大きなプラスチックごみについても海洋生物へ被害があります。餌と間違えて飲み込んだものの、体内で消化することができずに腸閉塞などを起こし死んでしまう事例も散見されます。過去には鼻にストローが刺さったウミガメの写真が話題になりましたね。あまりにショッキングな画像のため今でも鮮明に覚えています。
生き物はプラスチックを消化できません。海洋生物にとって生死に関わる危険な存在です。

この脅威は海洋生物に限った話ではありません。
私たち人間も知らず知らずのうちに、毎週5グラム、クレジットカード1枚分ものマイクロプラスチックを体内へ摂取している可能性があるといいます。
大気中や水道水、ボトル入り飲料や海産物、食卓塩などあらゆるところから検出されているそうです。

海洋生物や人々に悪影響を及ぼす海洋プラスチックごみ。
漂流し続けるごみを減らすために世界中でこの問題を解決すべく取り組んでいるということです。
レジ袋の有料化はこの問題に対してあまり効果がないのでは?という声もありますが、私は今回の有料化がこの問題について知ろうとするきっかけになりました。立ち寄った書店でも関連書籍が並べられており、その棚の前で本を手に取る人の姿がありました。根本的な解決にはならなくとも、世の中の関心が高まったという点では効果があったのではないでしょうか。

 

4つのR

レジ袋を使わないこと以外に個人でできる取り組みとして、4Rについて調べました。
よく知られる3R「Reduce」「Reuse」「Recycle」に加え、「Refuse」を加えたものです。
幼い頃から耳にしてはいましたが実際生活の中で意識する機会が少なかったので、自分のおさらいも兼ねて効果の高いものから順に具体例と共にご紹介いたします。

「Refuse」(断る/拒否する)
ごみになり得るものはもらわない/買わないようにすること
・レジ袋の利用を断り、マイバッグを使用する。

「Reduce」(削減する)
ごみを減らすこと
・食品を無駄なく食べ、残さない。
・使い捨てのものは避けて、長く使える製品を選ぶ。(充電式の電池/詰め替えて使える製品)
・簡易包装の商品/量り売り を選ぶ。
・洋服や装飾品のレンタルサービスを利用。

「Reuse」(再使用する)
一度使い終わったものでも、使える限り繰り返し使う。
・着古した服をリメイクして使用する。
・空き瓶を回収してもらい、洗浄処理。再び瓶として利用。
・修繕して長く使う。
・フリーマーケットやリサイクルショップの利用。

「Recycle」(再生利用)
紙やペットボトルなどを再び原料として利用し新たな製品にします。
主にマテリアルリサイクルを示します。
・資源ごみの分別回収への協力。
・リサイクル製品を積極的に利用する。

いきなり全てを実行するのはハードルが高いので、私はマイバッグやマイボトルの利用といつもより丁寧にゴミの分別してみるところから始めようと思います。

 

日本のごみ問題

数日前、一人の高校生が「過剰包装をやめて欲しい」と訴えて、集めた署名を大手菓子メーカーに届けたことが話題となっていました。
日本の過剰包装については海外でも問題視されており、日本は一人あたりのプラ容器包装の廃棄量が世界2位の、プラごみ大国だそうです。実際日本のプラスチックごみは国内で抱えきれないほど。
日本は年間900万トン以上プラごみを排出しています。容器包装関係だけでも450万トンほどあります。排出されたごみの80%は有効利用してるので「リサイクル先進国」と言っていますが、この有効利用は「サーマルリサイクル」と「海外輸出」のこと。サーマルリサイクルとはプラごみを燃やした熱を利用することです。海外ではサーマルリカバリーと言い、リサイクルにはカウントされません。
もう一方の海外輸出は、プラごみを「資源」として扱いアジアの途上国へ輸出します。
ごみ発電所の中で燃料として利用されるか、再生プラスチックになるのですが、汚れたプラごみはリサイクルにまわせない場合が多く、利用できなかったものに関しては捨てられます。「有効利用」の名目で輸出した日本からのごみが、結局他の国で自然環境に投棄されている、ということになります。
主な輸出先は中国や東南アジアでしたが、2017年に中国が廃プラの輸入規制を始めたのを皮切りに、アジア各国もこれに倣いました。こうして日本の廃プラは行き場をなくしているのです。
あと20年で国内最終処分場の残余容量が尽きるとも言われています。
こうした実態を受けて、日本政府が策定した「プラスチック資源循環戦略」では2030年までに使い捨てプラスチックの排出量を25%抑制する目標を掲げています。
パッケージ業界でもキットカットが紙製のパッケージになるなど動きがありましたが、今後こうした取り組みが増えていくのではないでしょうか。

過剰包装について訴えた高校生の話に戻ります。彼女の行動が称賛される一方で、企業側の応対も素晴らしく企業姿勢を評価する声が寄せられていました。
菓子メーカーは公式サイトにて、包装の必要性とこの企業が行ってきた環境問題への取り組みについて見解を示したのです。
このやりとりはSNSやネットニュースにより広く拡散され注目を集めました。

 

おわりに

パッケージは食品の保護や安全性の確保という重要な役割を持ちます。
デザイナーとして商品の情報や魅力を伝えデザインすることに日々やりがいを感じますし、消費者としても素敵なパッケージに巡り合うとつい嬉しくて買ってしまいます。
しかし中身を使用した後はごみとして処分されるのも事実です。あんなに心を打たれ「可愛い〜!」と手にとったものも、使い終わったらダストボックスへ…。心がキュッと痛みます。
パッケージデザインに携わらせていただく立場として、この問題について書くことを悩みました。
ただ作る立場であるからこそ知っておきたいと思い至り、雑然とした文章ではありますが今回記事として書き残しました。

今回の記事でご紹介した内容は問題のほんの一部だと思います。まだわからないことだらけです。
一回きりの関心で終わることなく、継続して調査していく所存です。

 

参考文献

脱プラスチックへの挑戦 持続可能な地球と世界ビジネスの潮流
堅達京子 +NHK BS1スペシャル取材班 山と渓谷社 2020

 

文章/イラストレーション
P.K.G.Tokyo 佐藤光

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