P.K.G. MAGAZINE | パッケージを考える

COLUMN

食卓を彩るパッケージデザイン

2025.07.07

今回は私がJPDA企画創作展『水・塩・米・酒』に出品した、スパイスのパッケージデザインをご紹介したいと思います。
食卓を彩り思わず使いたくなってしまうペッパーミル『TOY MILL』。
毎日の食事がいつもより楽しくなったら、心豊かに過ごせると思い制作しました。

ペッパーミルは、調理道具の中でもシンプルで古くからある道具のひとつです。
スパイスを自分で挽いて、料理にふりかけるためのキッチンアイテムで、上部を回すと中のしくみが動いてスパイスがつぶれ、下からパラパラと出てきます。
その場で挽くので香りがとてもよく、いつもの料理がちょっと特別な味になるのが魅力です。

最近ではデザイン性の高いものや、職人が手掛けた木製ミル、片手で使える電動タイプなど、多彩なバリエーションがお店に並んでいます。
一般的にチェスの駒のような見た目をしており、レストランなどで見たことがある人は多いと思います。

種類が増えている理由には、ライフスタイルの多様化など
さらには料理を楽しむ時間そのものへの価値の向上があると思います。
また、現代においてはSNSの影響も無視できません。
食卓やキッチンの見た目を重視する文化が広がり、調理器具のデザイン性も重要視されるようになりました。

ペッパーミルは単にスパイスを挽くための機能を持つ道具としてだけでなく、「選ぶ楽しさ」や「使う楽しさ」を提供し、使う人の感性や生活スタイルに響くブランド価値をもつ存在に変化してきたように思います。

料理に必要だからという目的で選ばれていたペッパーミルも、今では「どんなデザインがキッチンに合うか」「そのブランドのストーリーが好きか」といった情緒的理由で選ばれるようになってきているように思います。
つまり、道具としての機能に加え、使う人のライフスタイルや価値観と結びつく「ブランド価値」が重要視されています。

『TOY MILL』はペッパーミルの上部と下部に分かれた特徴的な構造を活かし積み木を組み合わせたような遊び心のある形状にしました。

子供の頃のように好奇心を思い出しながら、毎日の食事の時間を楽しんでもらいたいというそんな願いから、積み木というモチーフにしました。

上部の形と木の種類・色味の違いで5種類のスパイスを表現しています。
下部の形は、積み木のような直角のかたちに、クラシックなペッパーミルを連想させる曲線を組み合わせ、食卓にやさしく溶け込む形を目指しました。
木製素材ならではの木目の美しさと、木の温もりが感じられる柔らかい手触りも魅力のひとつです。

商品名である『TOY MILL』の文字はスパイスの粒を表現しており、よく見ると文字と文字の間に小さなスパイスが隠れています。
どの角度からでも商品名が視認できるよう、ミルの角をまたぐようにレイアウトし、木の素材感を損なわないようレーザー加工で刻印をいたしました。

実際に食卓に並べてみると、気分がぱっと明るくなったように感じました。
いつもの食事も少し特別に思えて、食欲がわいてきたり、苦手な食べ物にも自然と手が伸びたり。
そんな、小さな変化や前向きな気持ちを引き出してくれる存在だと思います。

「道具」でありながら「遊び心」と「物語」を持つデザインに仕上げた『TOY MILL』は、使う人の日常に小さな発見と彩りをもたらしてくれると思います。

 

 

P.K.G.Tokyo 小寺敬一朗

 

COLUMN

二代目パーパス誕生から1年。パーパスは生きている。

2025.05.12

パーパスとは、株主だけではなく従業員や取引先、地域社会といったすべてのステークホルダーへのコミットメントを「社会における存在意義」として宣言したステートメントのこと。

米国の有力企業のCEOが名を連ねる財界ロビー団体ビジネス・ラウンドテーブルが「企業のパーパスに関する声明」を発表した同じ年、創業2年目のP.K.G.Tokyoは初代パーパスを掲げました。2019年当時の従業員数は増員したばかりでもわずかに5名。次のステージのためにWebサイトのリニューアルに合わせての公開でした。

改めてP.K.G.Tokyoの初代パーパスを振り返ってみたい。

「世の中のあらゆる価値をデザインで更新し、世界のすみずみへ届ける」

こうして再掲出しても、今なお自身の根底にあるデザインに対する理想の姿勢を表していると思います。それは、あらゆるものごとに価値はあり、デザインはその価値を誰かのためにより良くアップデートして社会に届ける力があるということを伝えています。デザイナーである限り失いたくない想いであることに違いありません。

では、なぜ変えたのか。

初代パーパスはP.K.G.Tokyoの実態からするとかまえが大きすぎること。受け取る側によって解釈が異なること。依頼主や従業員の実感にまで降りてくることが難しかったこと。コロナ禍を経た2024年、依頼主も依頼内容も広がり従業員が倍に増えるタイミングで、より共感度の高い二代目パーパスの必要に迫られていました。

二代目パーパスは、次世代社会における私たちの存在意義を宣言。

P.K.G.Tokyo Purpose

「対話が導くデザインで、心が躍動するブランドをつくる」

私たちにとってデザインという活動は、それ自体が悦びでありながら、社会において私たちの存在意義を示すことができる職能です。その職能を駆使して私たちが手掛けたいのは、次世代へと価値をつなぐことができるブランドをつくることに他なりません。未来が今よりもさらに躍動する社会であって欲しいからこそ、私たち自身がデザインに心を躍らせながら、人々の心が躍動するブランドを世の中に届けたい。それこそが次世代社会の一翼を担うと心を決めた、新しいP.K.G.Tokyoの存在意義です。

「対話」というプロセスを経て「ブランド」というゴールを目指す姿勢を、次世代のP.K.G.Tokyoの実態に重ねました。

さらに私たちは、二代目パーパスを達成するためにP.K.G.Tokyoとして初めてインナー向けのバリューズ策定し、私たち自身の行動指針を明確にすることを試みています。

P.K.G.Tokyo Values

  • 好奇心 「好奇心をひらけ。世の中はポジティブに変換できる」
  • 洞察力 「あたりまえを疑え。自分自身のこころで本質を捉えよう」
  • 共感力 「共感をまとえ。他者の世界を五感で感じとろう」
  • 主導権 「主人公となれ。つくる悦びを我がものにしよう」
  • 審美眼 「美意識を磨け。美とは何かを考えつづけよう」

 

二代目パーパスとバリューズが誕生して1年。P.K.G.Tokyoは理想の姿に近づけたのか。まだ途上ではありますが、二代目パーパス宣言以降、私たちの活動は、従業員一人ひとりのパーソナルパーパスミーティングや、役職ごとの評価軸制定などへと展開しています。その効果が社内から社外へと広がってゆくことを信じて活動を続けてゆきます。

最後に、パーパス経営のメリットを5つ挙げてみましょう。私たち自身が対象となって、これからも時間をかけてこれらの効果を測りながら、パーパスとともに成長してゆく組織になりたいと思います。

  • 1.ステークホルダーからの支持拡大
  • 2.従業員のエンゲージメント向上
  • 3.ブランド価値の向上
  • 4.イノベーションの促進
  • 5.意思決定の迅速化

 

私たちが手がける事業のひとつ Identity Tokyoではパーパスを軸にブランド開発を行っています。気軽にお問い合わせください。対話から始めましょう。

 

P.K.G.Tokyoディレクター 天野和俊  

COLUMN

ブランディングにおけるショッパーの役目と重要性

2025.04.28

ブランド戦略を考える上で、パッケージデザインや広告だけでなく、「ショッパー(買い物袋)」の存在も軽視できません。

多くの企業がデジタルマーケティングに注力する一方で、実店舗での購買体験を大きく左右するショッパーは、ブランドの世界観を伝え、顧客の購買後の満足度を高める重要な役割を果たします。

 

【ブランディングにおけるショッパーの役割とは?】

ショッパーとは、商品を購入した際に持ち帰るための袋のことです。紙袋やビニール袋など素材はさまざまですが、単なる「持ち運び用の袋」としてではなく、ブランドの一部として機能しています。

① ブランドの世界観や想いを伝達する役割
ショッパーは、商品の「包装」の一部でもありますが、商品の一部として顧客が商品を購入した後もブランドの世界観や想い、目指したい方向性を補完する重要なアイテムです。
選ぶ素材やデザインによって高級感を感じさせるブランドにしたいのか、ECOに力を入れているブランドにしたいのかなど顧客にブランドの価値が視覚的に伝達するツールとしての役割も果たしています。

② 広告・プロモーションツールとしての役割
ショッパーは、消費者が持ち歩くことで「移動する広告」としての機能を果たします。ブランドのロゴやデザインが入ったショッパーを持つことで、街中や公共の場でブランドの認知度を向上させる効果が期待できます。

③ 顧客のロイヤルティを高める役割
洗練されたショッパーは、顧客が再利用したくなるため、ブランドとの接触機会を増やす役目もあります。お気に入りのブランドのショッパーを2次利用することで、ブランドのファン意識が高まり、リピート購入のきっかけになることも予想されます。

【環境問題に対する関心から変化する現代のショッパー】

2020年7月からプラスチック製レジ袋の有料化が始まり顧客の心境にも変化がありました。

全国の消費者3,000名を対象に2021年3月に実施された「Ponta消費意識調査」によると、家庭のプラスチックごみ削減のために取り組みたいこととしては「マイバッグを利用する」が94.2%にも及ぶという結果がありブランドでも環境に配慮したショッパーを導入する動きが広がっているようにも思えます。
(引用 : chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.loyalty.co.jp/storages/pdf/210427_1.pdf)

A.P.C.
「A.P.C.」は2022年5月、使い捨ての紙製ショッパーを廃止し、何度も繰り返し使用できるリサイクルポリエステル生地へ切り替え、販売を開始しました。売り上げの一部はWWFジャパンの環境保全活動へ寄付されるそうです。(画像引用_https://zozo.jp/elove/42155/

「BEAMS」は2021年5月、年間39万枚生産していたビニール製ショッパーを廃止し、GOTS認証を受けた100%オーガニックコットン製のショッパーに切り替えました。
“都度ショッピングバッグを消費する”という前提を変えていくことがねらいで売上の10%は公益財団法人オイスカ「子供の森」計画へ寄付されるそうです。(画像引用_https://zozo.jp/elove/42155/

 

【ブランドにおけるショッパーの重要性】

ショッパーは、ただ商品を購入した際に持ち帰るための袋という領域を超え始めています。
存在そのものを疑問視される世の中で、デザインや素材を通じてブランドの世界観やこだわりを伝える為にブランドにとってより大切なツールになりつつあります。

ショッパーに担わせる役割は年々増えてくると予想される中で、どういうデザイン・素材・メッセージを込めるかによってブランドの今後を左右していくことにも繋がるのだと思います。
むしろブランディング戦略においてショッパーを“後回し”にしていては本当に価値のあるブランドは築けないのではないでしょうか?

小さな袋ひとつにも、ブランドの魅力を詰め込む。
その意識が、これからのブランディングではますます大切になっていくのではないでしょうか?

引用:「ショッパー」がサステナブルに進化。脱プラやリユースの動きに注目!
– https://zozo.jp/elove/42155/

P.K.G.Tokyo 長田庄太郎

COLUMN

「ハラール認証マーク」から見る問題解決のデザイン

2025.03.06

皆さんは「タイ王国(以下、タイ)」を訪れたことがありますか?

トムヤムクンやパッタイなどのスパイス料理や寺院が有名で、年間平均気温はなんと29度、まるで「毎日が夏」のような温暖な国です。

先日、タイ旅行をしていた友人からお菓子や調味料のお土産をもらい、数年前の旅行を懐かしく思い出しました。「どうやって建てたの?」と思わず聞きたくなるような面白い形のビルや、路上で台車を引きながらフルーツを売る人々、市場から漂う美味しそうな匂い…。でも、やはり当時最も気になったのは、スーパーで目にした「商品パッケージ」でした。

今回はいただいたお土産を紹介しながら、タイならではのパッケージの特徴を深掘りしていきます。

「ミルクタブレット」

「これなんだと思う?」と笑みを浮かべながら渡されたこの白い袋。傾いたお釈迦様のイラストにネイビーの文字で商品名が書かれていて、中身は見当がつきません。ティーパックかドリップコーヒーかと思い、触れると硬くて丸い円盤のよう。開けてみると、昔懐かしいミルクケーキのような「ミルクタブレット」が出てきました。味はとてもおいしく大容量で魅力的ですが、外見と中身のギャップに驚きました。

「ひまわりの種」

こちらのパッケージは中身は想像がつきますが、モデルの全身をオモテ面に入れるという斬新さに惹かれました。(さらにはサインも書かれていました。)クラフト素材に彩度の高い色を入れると、くすみが弱くなり、柔らかい雰囲気を表現するクラフトでもしっかりと存在感が出せるのかと勉強になりました。

以上2つのパッケージを紹介しましたが、実は共通するポイントがあります。

それは「ハラール認証マーク(Halal Mark)」の記載です。

これはイスラム法(シャリーア)に基づいて製造された食品や製品に付けられる認証マークで、ハラールはアラビア語で「許されている」「合法的な」を意味します。イスラム教徒が消費しても問題ないことを示すものです。実際、いただいたお土産のほとんどに、誰が見ても分かりやすいサイズでハラール認証マークが記載されていました。

では、なぜこのようなイスラム教徒の生活に配慮した表示が多く見られるのでしょうか。日本貿易振興機構(JETRO)によると、2022年のタイ国民の全人口は約7170万人、そのうち95%以上は仏教徒、1.4%をイスラム教徒が占めていると言われています。一見少ないように感じるかもしれませんが、数で示すと約390万人。「18人に1人」がイスラム教徒であるこということを考えると、私たちが住む日本に比べて圧倒的に多いです。つまり、ハラール認証マークの記載がないと、それだけの人が食品を「気軽に口にできない」ということになります。こうした宗教的背景を作り手だけでなく、デザイナーも理解することが、積極的にハラール認証マークを記載することに繋がったのではないでしょうか。

話が少しそれますが、このハラール認証マークの重要性を改めて考えた時、佐藤卓さんの言葉を思い出しました。

「デザイナーとは『デザインのスキルを使って、物や事の本当の価値を人や人の暮らしへと繋ぐこと、物やクライアントと生活者の間に立って、伝えるべきことを適切に翻訳し、正しく伝わるようにお繋ぎすることです。』」

タイのパッケージデザインはハラール認証マークを通じてタイに住む「イスラム教徒」と「ハラール認証を受けた安心な商品」をつなげています。これはデザインが果たすほんの一例ではありますが、この「問題解決」こそ私がパッケージデザイナーを目指したきっかけだと言えます。

近年、アジア諸国に限らず世界各国でイスラム教徒の人口が増加しています。その数は20年後にはキリスト教徒を上回るのではないかとも言われています。つまり「ハラール認証マーク」を記載する商品が、日本のスーパーでも当たり前のように陳列される日は、そう遠くないということです。「問題解決」というパッケージデザインの役割を意識し、この商品がどの地域で、どのような人々に手に取られるのか、常に深く向き合っていきたいです。

出典:

amana iNSIGHTS「気付かれないデザインこそ、デザイン。佐藤卓さん(グラフィックデザイナー)」2017年11月16日(最終閲覧日2025年3月3日)

日本貿易振興機構(JETRO)「ASEAN主要国におけるハラール認証制度比較調査~マレーシア、インドネシア、シンガポール、タイにおける制度比較~」2024年3月15日(最終閲覧日2025年3月3日)

ニッポンドットコム『「知ることから始めよう」-偏見や差別をなくすために:日本人ムスリムの訴え」2024年6月13日(最終閲覧日2025年3月3日)

COLUMN

「包む」生命の本質

2025.02.04

私がパッケージデザインの道を選んだのは、先生が書いた一つの詩が大きなきっかけでした。

「包まれること」

地球に生きてる僕たちは
大気の中で包まれて生きている。
生命はすべて包まれた存在だ。
母親のお腹に宿った生命は
やさしく包まれて生まれてくる。

包むことは生命のすべてにおいて必要なこと。
パッケージデザインとは生命かな。
そして
外見も生きた表現にするコトが
大切なんだよ。

この詩は授業でパッケージデザインを紹介する時に見せてくれたものです。読む度に自分の専門に対する誇りと哲学的思考を与えてくれ、長い間自分のノートに残っていることで励みになっています。

パッケージは、単に物理的な保護や流通の便を提供するものだけではありません。「包む」ことが、生命の営みを象徴する行為であり、生物の進化や希望、生存を支える根源的な役割を果たしているということに、気づくことができました。まるで母親が子を包み込む愛情のように、パッケージが中にある価値を優しく保護しつつ、未来の希望をつないていく二つの視点を捉えていると思います。

そして、日本は「包む」ことが好きです。贈り物を包む、食べ物を包む、お金を包む、言葉を包むなど、日常に包む美学が溢れています。たとえば一枚の白い紙を使って折形礼法で贈り物に気持ちや自分の行動に形を与えています。そこには贈る相手を大切に思う気持ちや心そのものを守る想いなどが込められています。このような背景から「包む」という行為には精神的な豊かさが宿っていると思います​​。

一方でパッケージの役割は現代の消費社会の中で再定義されつつあります。環境問題が叫ばれる今、持続可能性を追求したデザインは「包む」そのものが生命を尊重する行為であることを再認識しました。素材や形状だけでなく、リサイクル可能な設計や廃棄後の未来まで考えることが今のパッケージデザインにとって不可欠になっているのです。

パッケージが物理的な役割を超えて、命の象徴として位置付けられることで、その存在がさらに深まっています。「包む」という行為が生命の保護、共有、そして次世代への希望を示しており、私たちの仕事が未来へつながる道を包むことでもあります。今日も、デザインに向き合うとき、先生が教えてくれた「包む」という行為の本質を思い出しました。それは、生命や文化、人々の心を結ぶ行為であり、私にとって生涯をかけるに値する挑戦だと感じています。

参照サイト
機関誌『水の文化』41号 和紙の表情
https://www.mizu.gr.jp/kikanshi/no41/07.html

P.K.G.Tokyo 朱 贇

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